第671話 解析結果とエルフの怒り

「間違いね。この部品には風の妖精シルフィードの素材組み込まれでいます。酷いごどばひどいことを……」


 呻くような口調でそう呟くファーマーさん。


風の妖精シルフィードっていうと……、羽があって……、愚かな男がその魅力に狂って魔女に騙されて呪いのショールで風の妖精シルフィードの羽と命を落として本人も破滅する有名なバレエでお馴染みの?』


 ミナトが心の中でそこまで呟いた時、一瞬にして周囲一体を剣呑な魔力が覆い尽くした。


 凄まじいプレッシャーを全身に感じるミナト。夏の陽光を感じることができた明るい中庭の空気が一変する。


「やっぱり……、あの風魔法の威力はおかしいと思ったのよ……。ファーマー、ありがとう。私にはそこまでの解析はできなかったから……。この大陸の滅ぼすべき存在がまだ残っていたってことね……」


 暗い表情で俯きながらそう呟くシャーロットから溢れ出した魔力が殺気を帯びる。


「シャーロット!?」


 倍加するプレッシャーにミナトも驚きの声を上げる。今日は【保有スキル】である泰然自若が機能していないらしい。


「シャーロット様、落ぢ着いでけせ」


 こんな状況下にも関わらず落ち着いた声音でそう話すファーマーさん。


「こんなことを知らされた状態で落ち着けというのかしら?」


 魔力から感じる強烈な殺意がその圧を増す……、この魔力を向けられた者には確実な滅びが与えられるのだろう。そんなことが理解できてしまうほどの絶望的な魔力の奔流がそこに出現していた。


「落ぢ着いで聞いでけせ。この風の妖精シルフィードぁ既さ死んでら。このゴーレムぁ亡ぐなった風の妖精シルフィードの羽ど魔力利用する構造組み込まれでらった」


『死んでいる風の妖精シルフィードの羽と魔力を利用できる構造をもったゴーレム……』


 ファーマーさんの言葉をミナトは心の中で呟く。


「何者がは分がらねが、誰かが『風のダンジョン』さ潜り風の妖精シルフィードの墓暴いだのだべ。世界最難関のダンジョンであっても風の妖精シルフィードの墓ぁ比較的浅え層にありあんすすけね」


 極めて落ち着いた口調で淡々とそう説明するファーマーさん。見た目は『前へ!』を連呼しながら死者の群れに突っ込んで行く神父様だが今のファーマーさんは冷静な佇まいのダンディーなおじ様といった感んじである。


 そんなファーマーさんの冷静な口調が効いたのかミナトの周囲に立ち込めていた瘴気にも似た魔力が霧散する。


「そういうこと……、でも風の妖精シルフィードの翼は死してなお世界に風を届ける役目を担う……。とてもじゃないけど許される行為じゃないわよ?」


「それはもぢろんそうだ。そのだめにもこごは冷静になるべし」


「分かったわ!」


 そんな様子見たミナトは、


「シャーロット?大丈夫?」


 そう話しかける。


「ええ、ミナト、私は大丈夫。ちょっと取り乱したわね。ごめんなさい」


 そう言ってくるシャーロット。どうやらいつものシャーロットに戻ってくれたらしい。素直に嬉しいミナトである。


「よかった……。それじゃ、改めて聞かせてもらってもいいかな?解析魔法でシャーロットとファーマーさんはゴーレムの何を知ったの?風の妖精シルフィードっていうのはどんな存在?おれの世界にある創作物の風の妖精シルフィード同じかな?」


「ミナトはまだ風の妖精シルフィードとは遭遇していないものね。ミナトがいた世界の創作物に出てくる風の妖精シルフィードにも興味があるけど、風の妖精シルフィードに関してはきっとミナトがいた世界のとはかなり異なる存在だと思うわ」


「それはどうして?」


風の妖精シルフィードはウインドドラゴンの仮の姿、真の姿はデボラ、ミオ、ナタリアと同じ世界の属性を司るドラゴンなのよ。あのゴーレムを造った連中はどうやら『風のダンジョン』にある風の妖精シルフィードの墓を荒らした可能性が高いわ」


 今回の様々な出来事に世界の属性を司るドラゴンが関係してくるとはさすがに考えていなかったミナトは素直に驚く。だが【保有スキル】である泰然自若が機能しているらしい。すぐに冷静さを取り戻すミナト。


「これはゴーレムを造った連中を滅ぼした後で『風のダンジョン』に行く必要があるわね」


「えっと……、いろいろと詳しく教えてもらっていいかな?」


 シャーロットとファーマーさんにそうお願いするミナトであった。

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