第670話 ファーマーさんへ解析のお願いを

「……というわけで……、お城まで来て頂いたのです……、あは……、あはは……」


「何があったのがは聞がねが、ほんに大丈夫だが?」


 毎度のことながら楽しくも濃密な夜を過ごしてヨレヨレのミナト相手に心配そうにそう問いかけるのは……、メガネがよく似合う凛々しいオジサマ……、というか二本の銃剣を双剣のように振り回して無双する神父様という表現がとてもしっくりくる……、ファーマーさんである。


 そしてミナトもなかなかな憔悴っぷりだ。お相手はいつもよりは少なかったはずなのだが……、分裂したピエール全員が人の姿になったのは夢だと思いたいミナトである。


『ピエールちゃん……、自我を持った分裂体はちょっとズルいんじゃないかなってお姉さんは思うの……』


 シャーロットのそんな呟きも耳に残っている気がするが詳細な記憶は朧げなミナトであった。


 そんな夜を乗り越えたミナトがいるのは王都の東にある大森林の最奥部。ミナトの城である。


 大きく深そうな二重の堀で囲まれ、高い城壁を備えた巨大な要塞とも表現できそうな強固な城。城壁、城門、パラスと思われる箇所から尖塔などまでところどころに金色があしらわれた見事な漆黒を湛えており、その禍々しさは尋常ではない。心弱いものであれば正面に立つだけでその命の灯火を吹き飛ばされてしまいそうなド迫力の城である。やはりどこからどう見ても魔を統べる御方がお住まいになるための居城の雰囲気であった。


 そんなお城の広い中庭。寝転ぶのに最適な美しく手入れされた芝生が敷かれている一画にミナト、シャーロット、ファーマーがいる。


 この三人のみというのは少し珍しい。


 デボラとミオは第一王女の護衛で王城。


 ナタリア、オリヴィア、ピエールは星みの方々の護衛のため王都にある高級宿の『星降る満月の湖畔亭』に詰めている。本来はミナトとシャーロットも護衛依頼の遂行中なのだが本日は外出の予定もないということだったので抜けてきたのだ。ミナトとシャーロットがいなくてもナタリア、オリヴィア、ピエールが滞在している宿をどうにかできる者などほぼ存在しないのだ。


 ロビンとフィンは今日も女性冒険者を付け狙う不届者の炙り出しをしている。さすがに相手も異変を感じたのかそういったことをする冒険者はほぼ見かけなくなったらしい。一応、警戒は継続中というところだ。


 そんなこんなでお城で働いているドラゴンさんやフィンの部下は一定数いるがお馴染みのメンバーは王都にいる状態なのである。


「ファーマーさん、これがそのゴーレムです」


 ミナトが【収納魔法】の収納レポノで亜空間から巨大なゴーレムを芝生の上に取り出す。ファーマーさんにきてもらった理由がこのゴーレム。


 シャーロットがその構造を気にしていたゴーレムだ。


 巨大なゴーレムにの色は黒。材質は金属製であり人形というよりは機械とか魔道具といった表現が相応しく思えてくる。そしてその特徴的な丸っこいフォルム。それはミナトたちを襲撃した妙に強い風の魔法を使う砲台型のゴーレムと同じタイプ思われた。


 これをファーマーさんに調べてもらうのである。


「ファーマー、お願いするわ」


 そう言うシャーロットに頷いてみせ、


「それだば、始めでみるべが?どったごどが分がるのが……、超式存在構成解析マキシマム・アナライズ……」


 ファーマーさんの言葉に呼応するかのように黒かったゴーレムの巨体がうっすらと青色に染まる。


『高度な水魔法ってことだけど術者で解析結果に差が出るのかな……』


 ミナトがそんなことを思っているとゴーレムの巨体が元の黒色に変化した。解析が終了したらしい。


「残念なごどだげども……」


 ファーマーさんはそう呟いて静かに首を横に振るのだった。

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