第669話 王都の宿の一室で……

 ルガリア王国の王都でもそれと知られた高級宿である『星降る満月の湖畔亭』。星みの方々滞在のため貸し切られたその一室でワイングラス片手にテーブルを囲むのはミナト、シャーロット、ナタリア、オリヴィア、ピエールの五人。


 王都までの護衛を無事に終えたことを労うささやかな打ち上げといったところである。


「デボラとミオは第一王女様に同行しているのかな?」

「そうみたいよ。最初は冒険者の護衛って話だったらしいけど、第一王女たっての希望でミオは友人、デボラは女性騎士ってことで王城に入れたって聞いたわね」

「王城を楽しんでくるそうです〜」

「当分の間はあちらに滞在すると仰っていましたね」


『デボラとミオはそれでいいかもしれないけど、王家や公爵家の人達はそれでよかったのかな?』


 そんなことを心の中で呟くミナト。デボラもミオもその気になれば単騎で王城を落とすことができる破格の存在である。味方とはいえそんな巨大戦力を近くに置いて心安らかに過ごせるのか……、おそらく全てを統括しているであろうカーラの胃が心配なミナトである。


「王城にも分裂体を送っていマス〜。騒ぎは事前に消しマスヨ〜?」


 さらにピエールがそう言ってくる。


「デボラとミオだけじゃなくピエールの分裂体も……。これで第一王女様に何かを仕掛けることができるのであればやってみせてほしいくらいだ」


「第一王女に危害を加えることは不可能でしょうね。あとは王家の汚点となるような騒ぎを起こすことができるかどうか……、かしら?」


 ミナトの呟きにシャーロットがそう返す。


「おれ達への襲撃やゴーレムの出現はそのためで……、そういえば冒険者の女性を狙うつもりがフィンの部下を襲っちゃったっていうのはどうなったのかな?あれもきっと王都で騒ぎを起こすのが目的だよね。ロビンもフィンも部下たちも冒険者ギルドでは見かけなかったね」


「あの二人は部下と一緒に歓楽街で楽しんでいるはずよ?ピエールの分裂体も加わって襲撃者を釣るんですって。これまでも結構な数の見たこともない冒険者が絡んできたらしいわ。全員再起不能にしたらしいけど……、あ、他の女性冒険者に被害はないそうよ?」


「ソウデスカ……」


 おそらくフィンの部下に絡んだ冒険者は首に骨を折られるか精神を崩壊させられている。同情の感情はとても希薄であるが一応は心の中で手を合わせておくミナト。


「王都で女性冒険者を襲う……、星みの方々を襲撃し護衛の冒険者共々亡き者にする……、多数のゴーレムを用意し探索に来た冒険者を斃し王都に攻め入る様子を見せ子飼いの者に討伐させる……。どれも成功すれば冒険者ギルドとの協調路線を支持する王家を糾弾できたんじゃない?」


「成功すれば……、ね?」


 シャーロットそう呟き、


「全ての痕跡は消しています。王都は平穏を保っていますし、襲撃もゴーレムの存在もそれがあったという証拠はもうどこにもありません」


「がんばりマシタ〜」


 オリヴィアとピエールがそう言ってくる。二人の言うとおり、一切の痕跡を消してきた。王都で女性冒険者を襲撃した者などいないし、星みの方々は一切のトラブルもなく王都に到着し、巨大なゴーレムの目撃情報は誤報であった……、多少異なる真実はカレンさんには報告し、二大公爵家や王家には伝えられているかもしれないが、公式な記録にはそのように記載されている。


 唯一、残っている証拠はシャーロットに頼まれて【収納魔法】の収納レポノで亜空間に保存したゴーレム一体のみ。明日、ファーマーさんに調べてもらう予定である。


 チラリとシャーロットへ視線を送ると、ミナトの心境などお見通しなのか、


「あのゴーレムのことは気になるけど、それは明日には分かることだから今は気にしないわ!」


 そう答える美人のエルフ。


「それよりも……、よ!」


 そう言ってくる視線に熱いものが込められているのを感じるミナト。


「夜はまだまだこれからじゃない?王都にいるのに宿に泊まるって……、なんかいつもと違って……、イイ感じじゃない?」

「あらあら〜?シャーロット様もですか〜?」

「わ、私はどこでも構いませんが……」

「みんないっしょデス〜」


 上目遣いでそう言ってくる美貌のエルフ、優雅にワイングラスを傾けつつ妖艶な笑みを浮かべるスタイル抜群の美女、顔を赤らめている美しい銀髪とキメの細かい褐色の肌に中性的な美しさを誇るケモ耳の執事、そして非常に可愛らしくこれまた絶世とし表現できないほどに美しい幼女。


 そんな破壊的な存在を前にして……、今夜も長い夜になることが避けられないという現実を受け入れてしまうミナトであった。

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