第667話 カレンさんに報告を

「すいません。唐突なお話しで少し取り乱しました。つまりミナトさんは『鉄の意志アイアン・ウィル』の皆さんが取り逃した男の行方に心当たりがあるということですか?」


 驚きの表情でそう問い返すのは冒険者ギルドで受付嬢をしているカレンさんである。


 ここは冒険者ギルドの会議室。時刻は深夜に差し掛かっている。


 あの戦闘の後、王都へ帰還した『鉄の意志アイアン・ウィル』の四人は捕縛したバリエンダール商会の会長であるグンナル=バリエンダールを冒険者ギルドに突き出した。


 証拠がないため犯罪の立証は難しいと思われたが、どうゆう訳か冒険者ギルドが特別に保管している年に数回だけ使えるとされる嘘を看破する魔道具の使用が許可された。その結果、『鉄の意志アイアン・ウィル』の主張が正しいと認められグンナル=バリエンダールは王城へと引き渡され苛烈な尋問を受けることが決定されたのだった。


 いろいろな手続きが終了した後、改めてカレンさんが『鉄の意志アイアン・ウィル』の四人から報告を聞き終えたタイミングでミナトたちは冒険者ギルドを訪れカレンさんに会議室での打ち合わせをお願いしたのである。


 そこで王家の威信への影響を考慮して『鉄の意志アイアン・ウィル』にもしものことがないよう気配を消して同行したことを説明した。その際にミナトが『あ、逃げた男の足取りは追えますよ?』と言ったことに対するカレンさんの反応が冒頭の台詞につながっている。


「ええ、まあ方法に関しては冒険者の秘密ってことにして頂ければ……、あはは……」


 カレンさんや二大公爵家の面々、王家の人々にはその強大な力を知られているミナトたちだがピエールの真の姿については知られていない。


「分かりました。そのことに関してはこちらも詮索はしません。明日にでも公爵様に報告しようと思いますがミナトさんたちのことを報告に含めても……?」


「構いませんよ。星みの方々の護衛もそうだけど、今回の『鉄の意志アイアン・ウィル』への指名依頼もその後の街道封鎖といった対応も中心はあの人達でしょ?」


「私からはこれ以上は何も申し上げることができないのですが……」


「大丈夫!気にしていませんから」


 そう答えるミナト。


 星みの方々の護衛は王家のことを考えた二大公爵家からの依頼である。そして可能性を考慮してはいたのかは不明だが巨大ゴーレムの目撃情報の影に隠れる陰謀めいた何かに気づき『鉄の意志アイアン・ウィル』を指し向け、いち早く街道を封鎖し、あわよくば王都に戻ってくるミナト達による秘密裏な巨大ゴーレムの討伐を、という筋書きを描いたのも二大公爵家……、おそらくミリム=ウッドヴィルあたりだろうとミナトは考えている。


『見方によってはいいように利用されているとか、踊らされている状態とかってやつかもしれないけど、今回の報酬は米と醤油……、いくらでも踊ってやろうじゃないですか!』


 異世界転生の定番である日本食材の入手。しっかり働いて確実に入手したいミナトであった。そのため、


「依頼を達成して今回の報酬をきちんと頂けるのでしたら何の問題もないです!」


 いい笑顔でそう言い切るミナトの全身からほんの少しだけ剣呑な魔力が漏れる。


「ありがとうございます……」


 そう答えつつミナト達への報酬に関しては翌日ミリムに念を押しておこうと心に誓うカレンさんなのであった。

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