第666話 B級冒険者の戦術
リーダーであるウィルの戦闘開始の合図に呼応するかのように『
大地が盛り上がり、不自然な風が流れ、大気が熱を帯びる。
「バカな!?B級冒険者風情が魔法など……」
喚き散らすグンナルと驚いた表情となっている侯爵家の家来が護衛達によって後方へと移動させられる。
しかしそんなことに構うことなく盛り上がった大地の亀裂から無数の土塊が発生し瞬く間に護衛達を取り囲む。
『あれが
『魔力量の少なさを上手にカバーしているわ。優秀な師から教えを受けている証拠よ。あの使い方なら完全に密閉しなくても十分だから』
ミナトは浮かぶ土塊に取り囲まれた護衛の周囲に
『あの大量の
いい笑顔で頷きつつ満足気にそう評するのはシャーロット。
『この前、世界の理を破壊する可能性を秘めた魔法を使っていなかったっけ?』
という問いかけをギリギリのところで飲み込むミナト。
ほんの僅かな時間で準備が整ったらしい。
『そう……、
シャーロットがそう呟いた瞬間と無数の浮かぶ土塊で覆われた空間内の炎が一つの
無数の浮かぶ土塊で覆われた空間が轟音と共に鮮やかな赤に埋め尽くされたのはその直後のことだった。
断末魔の叫びを上げることすら許されず爆発に巻き込まれた護衛達は瞬時に命を落とすことになったのである。
「まだだ……、アンタには聞きたいことがある……」
いつの間にかグンナル達の背後に移動していたリーダーのウィルが長剣の柄でグンナルのこめかみに一撃を加えて昏倒させる。その動きはミナトが記憶しているウィルの動きよりも遥かに素早い。
『身体強化魔法ね。これも使い方が上手だわ』
シャーロットが呟いている間にもウィルは護衛を失った侯爵家の家来なる男に迫る。
「くらえ……」
おそらく一切の手加減をしていないであろう高速の斬撃を右の肩口へと叩き込もうとするウィル。
しかしウィルの長剣は虚空に振り下ろされた。男の姿は少し離れたところにある。
『転移した?』
思わず念話で呟くミナト。魔法の行使は感知できなかったがウィルと対峙した男は間違いなく瞬間移動を果たしていた。
『魔力を感じない……、っていうことは……』
シャーロットの呟きのような念話が届く。
ミナトがシャーロットに問いかけようとしたとき、侯爵家の家来が自身を抱きしめるかのようにして蹲った。
「何ということを……、あの御方に……、尊敬する我が主人から手渡された……、貴重な……、貴重な魔道具を……、まさかB級風情の冒険者の攻撃を避けるために使用してしまうなんて……」
ぶるぶると震えながらうわ言のようにそん内容を呟く男。ウィルも転移できる魔道具の登場にさらなる何かを警戒して追撃には戸惑っているようだ。
そうして十数秒ほどが経過し……、
「まあ……、いい……、滅ぼせばよいのだ……、そうですね……、フ、フフ、フフフフフ……、いいでしょう……。この場は私の負けです。ここは引かせて頂きます!」
「お前を俺達が逃すとでも?」
四人揃った『
「残念です……。これをもう一つ使うともっと怒られてしまうかもしれません……」
そう自嘲気味に呟く男の手には小さな懐中時計のようなものが握られている。どうやら転移できる魔道具らしい。何か魔法を行使したのか男を中心に突風が巻き起こり男の身体が宙に浮いた。
「逃すか!」
ウィルが斬り掛かるが身体強化でも届かない高さに男が素早く移動する。残りのメンバーも魔法を放つが全て風に遮られる。
『あれも風の魔道具……』
シャーロットのそんな呟きをミナトは聞いたかもしれないが、そのことは頭の中を素通り大事な指示を飛ばしていた。
『ピエール!分裂体で追ってくれ!』
『承知デス〜』
ごく小さいピエールの分裂体が生み出された瞬間、隠蔽を施して飛び上がる。吹き荒れる突風など関係ないとばかりにピエールの自律型分裂体は男の靴底へと張り付く。
「私のことを侯爵家に訴えても意味はありません。『当家にそんな人物はいない』で終わりです。次にお会いした時は地獄をご覧に入れて差し上げます。では!」
そう言い残して男の姿が虚空に消えた。ウィル達は悔しそうにしているが、
『ピエール……、宜しくね?』
『ピエールちゃんの分裂体を靴底につけたまま転移……。ミナト、どうしましょう?あの捨て台詞が間抜けすぎてどうしたらよいか分からないくらいだわ!』
『まあ、端的に言って愚か、かな……』
そんな話でひとしきり盛り上がるミナトたちであった。
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