第664話 瞳に宿る決意の光

 この場所に潜んでいるゴーレムがミナトたちと遭遇したゴーレム同じように自爆する機構を備えている可能性は高い。


 ゴーレムの起動条件がいまひとつ判然としないが、【闇魔法】の絶対霊体化インビジブルレイスを発動している状態のミナトたちを感知することはまず不可能である。そのためシャーロットは自爆する前のゴーレムを調査できるのではないかと考えた。


 ちなみに他の場所でピエールが見つけた小型のゴーレムは起動した直後にピエールの酸弾によって存在そのものを溶かされ消滅させられている。


 ピエールの分裂体を使用するまでもなくゴーレムはすぐに見つかった。周囲にある樹々でギリギリ隠せるくらいの巨大なゴーレム。色は黒。近寄ってみると材質は金属製であり人形というよりは機械とか魔道具といった表現が相応しく思えてくる。そしてその特徴的なフォルムには見覚えがあった。


『これっておれ達を襲った巨大ゴーレムじゃない?自爆しそうになった……』


 未だにシャーロットを背負ったままの状態でミナトが念話で会話する。絶対霊体化インビジブルレイスは依然として発動中だ。


『そうね。この丸っこい巨体……、あの妙に強い風の魔法を使う砲台型のゴーレムと同じタイプってところね』


『調べるって言っていたけど、どうやって……?』


『ミナト、降ろしてもらっていい?絶対霊体化インビジブルレイスは解除したくないから私には触れたままでお願い。背後に回りましょう』


 シャーロットに従い手を繋いだ状態で巨大なゴーレムの背後へと移動するミナトたち。


 ミナトの右手とシャーロットの左手を繋いだ状態で座り込んでいる巨大ゴーレムの背後に立つシャーロット。


『普段はゴーレムに興味なんてないから敵対したら破壊するだけなのだけど、このゴーレムが妙に強い風魔法を使っていたのが気になったのよね……。だから調べようと思うの……、こうやって!』


 同時にシャーロットの右手による貫手がゴーレムの背中に突き刺さる。


超式存在構成解析マキシマム・アナライズ……』


 シャーロットの言葉に呼応するかのように黒かったゴーレムの巨体がうっすらと青色に染まる。


『ゴーレムとか魔道具の機能を精密に解析する魔法で、ジャンルとしては水魔法なの』


『おお!そんな便利な魔法もあるんだ?』


『どうかしら……、かなり高度な水魔法ではあるのだけど……。ゴーレムって一応は魔物だから調べる必要もなくて斃せばそれで終わりだし、魔道具なら製作者が同じような解析が行えるのよね。それで使われなくなった魔法って感じかしら?』


 ミナトと念話を交わしながらもシャーロットは解析を進める。そして数分が経過し……、


『シャーロット?その……、大丈夫……?』


 心配そうなミナトがそう念話を飛ばす。シャーロットの表情はかつてないほどに沈んでいた。そして、


「もしそうなら許さない……」


 シャーロットのそんな呟きをミナトは確かに聞いたような気がした。瞬間、周囲に結界が展開される。シャーロットによる結界だ。


「シャーロット!?」


 ミナトがシャーロットに声をかけると同時にシャーロットの全身から夥しい量の魔力が溢れ出し、空間に聞いたこともないような轟音が響いた。凄まじい衝撃波が生まれる。


「マスター!」


 思わず目を閉じ耳を塞いだミナトの全身をピエールが覆うことで轟音と衝撃を完全に防いでくれる。


「もう大丈夫デスヨ〜」


 おそらく数分は経過しただろうかピエールの言葉にミナトが目を開く。見上げた先には全身に亀裂が入りギリギリ状態で形を保っているようなゴーレムの巨体があった。


 そしてミナトの傍にはシャーロットが立っている。先ほどの衝撃が魔力によるものと判定されたのか絶対霊体化インビジブルレイスは解除されていた。


「いきなりごめんなさいミナト……」


「いや……、びっくりしたけどピエールが護ってくれたし……、この通りぜんっぜん大丈夫。ゴーレムを破壊したみたいだけど……、それで何か分かったの?」


 俯き加減で謝ってくる美人のエルフに全く気にしないといった様子で答えるミナト。


「ミナト、これはファーマーに確認してもらう必要があるの。詳しい説明はファーマーの確認の後でもいいかしら?」


「それは構わないけど……?」


「ゴーレムの機能は完全に停止させたわ。ミナトの収納レポノに収納できるはずよ。結界の中の地形を戻してあの連中が何も見つけられなかったことを確認したら王都に戻りましょう」


「その後でファーマーさんに……?」


「ええ……」


 ミナトの言葉をこれまでない暗い表情で肯定する美人のエルフ。


「もし私が感知した内容が真実なら……、私はこのゴーレムを造った者を……、きっと許さない……」


 そう呟くシャーロットの美しくも凄絶な表情にミナトが思わず息を呑む。美しいエルフの瞳には断固とした決意の光が宿っていた。

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