第663話 B級冒険者パーティは探索中

「よし!この周辺にもゴーレムの気配なし。次が五つめ……、最後の探索ポイントってことになる。ちょっと距離があるな……」


「ここまでゴーレムの姿を拝むことなく順調に来たからな。このまま最後の場所も静かであってほしいもんだぜ」


「ああ、そう願いたいものだ」


「ここも俺が先行します。訓練で教えてもらった斥候の技術がこうも役に立つとは……」


 そんな会話をしているのはB級冒険者パーティ『鉄の意志アイアン・ウィル』だ。リーダーのウィル、最初期からのメンバーであるケルノスとブラック、そして彼等と同郷であり昨年パーティに参加した若手であるアルバンの四人で構成されている。


 元々、王都において実績のあるパーティではあったが、『ロビンちゃんの楽しい地獄のダンジョン戦闘訓練』や『ファーマーさんと学ぶ素敵なヤバい魔法実技』という二つの講習会に参加させられたことでパーティとしての練度は著しく向上している。さらにはこの春から『フィン様と見目麗しい言葉にできない仲間達と行く本格野戦訓練』にも参加したことで様々な技術を学ぶこともできていた。


 そんな経緯もあり実力だけならA級かもしれないとされているパーティである。


「……というわけで、この地点にもゴーレムはいなかった。そういうことで問題ないか?」


 手に持った地図をヒラヒラとさせながら同行している依頼者……、バリエンダール商会の商会長であるグンナル=バリエンダールとティジェス家という侯爵家の家来と思しき男に確認を取るウィル。


 ウィルが手にしている目的地が書き込まれた地図は依頼者の二人から渡されたものだ。書き込まれた目的地は五ヶ所、そこを重点的に探索するようにとの指示を受けたのである。


「ええ……、それで構いません……」


 憮然とした表情でそう答えるグンナル。もう一人はウイル達を完全に無視しながら俯き加減でぶつぶつと何やら呟いている。


 鉄の意志アイアン・ウィルの四人はミナトが巨大なゴーレムと接敵し、秘密裏に撃破したことを知っている。目の前にいる依頼者達がなぜゴーレムの存在にこだわるのか……、きっとミナトたちがゴーレムの撃破を隠したことと何か関係しているのだろうとウィル達も気づいている。しかしミナトたちの真の実力を知っている鉄の意志アイアン・ウィルはそのことには絶対に首を挟まない。


 彼等は本能的に理解しているのだ。もしこの連中がミナトたちに敵対する存在であればきっと遠くない未来でこの連中には破滅が訪れることを……。


 一方、その頃……。


「ここが最後の地点だね……。それにしても他の四ヶ所に全部ゴーレムが配置されていたとは……」


「どうしてもゴーレムを使って騒動を起こしたかったんじゃないかしら?」


 ミナトの言葉にシャーロットが返す。【闇魔法】の絶対霊体化インビジブルレイスは絶賛発動中でミナトがシャーロットをおんぶしている状態だ。絶対霊体化インビジブルレイスはミナトが触れていない者にはその効果を発現させることができない。シャーロットがおんぶを気に入ったらしくここまでの移動はこの状態が継続されていた。


 ミナトが言うように二人がいるのは鉄の意志アイアン・ウィルの地図に載っていた最終探索地点。最も移動に時間がかかるここに先回りをしたのである。


『他の四ヶ所のゴーレムはぜんぶ小さいゴーレムでシタ〜。全て溶かして消去しまシタヨ〜。痕跡はいっさい残していまセン〜』


 ミナトの漆黒の外套マントなっているピエールから念話が届く。やはりゴーレムが配備されていたらしい。


「ピエール。ありがとう」

「さすがはピエールちゃん!」


 そう声をかけると漆黒の外套マントがふよふよと揺れる。嬉しい感情が念話通して伝わってきた。そうして、


「……ということはここにもゴーレムがいるということかな?」


「間違いないと思うわよ?」


『そう思いマス〜。溶かしますカ〜?』


 そんな会話を続けるがまだゴーレムの気配は感じない。


「たぶん何か生体反応を感じとって起動しているんじゃないかしら?絶対霊体化インビジブルレイスでそれを感じとれていないなら都合がいいわ。同じようなゴーレムならこのまま近づけば自爆する前にいろいろ調べることができるかもしれない」


「なるほど……」


 そう返してシャーロットの言葉に頷くミナト。とりあえずこの状態のままゴーレムを探すことにするミナトであった。

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