第660話 再調査へ
執拗に食い下がる商人風の男性に冒険者ギルドの受付嬢は『それならご自分で……』と提案したところ別の人物が同行したいと表明した。
その様子を視線の端に捉えつつカレンさんの先導で会議室へと到着するミナト、シャーロット、ナタリア、オリヴィア、そしてピエール。
「カレンさん、さっきの商人っぽい人って誰なんです?」
そう問いかけるミナト。ゴーレム騒動に関わっているのであれば、今回の道中で遭遇したならず者の冒険者や刺客連中とも繋がりがあるかもしれない。そう考えたのだ。
「はい。ゴーレム目撃情報をギルドに持ち込んだのはあの方です」
躊躇なく答えてくれるカレンさん。通常であればこのような情報を冒険者ギルド職員が簡単に教えることなどありえない。
しかし現在のミナトはルガリア王家と二大公爵家であるウッドヴィル家とタルボット家の連名で星
そして護衛対象である星
報酬である米と醤油のためなら王家にできる限りのことをしてあげたいと気合の入っているミナトであった。約束の報酬を王家が反故にしないことを祈るばかりの状況である。
刺客やゴーレムによる襲撃などといった物騒なことなどなく、星
ミナトの状況に関してはB級冒険者パーティ『
そんな騒動の渦中にどっぷりと浸かり始めているミナトには全てを伝えようとカレンさんは決めたらしい。
「あの方はバリエンダール商会という大きな商会を率いているグンナル=バリエンダール氏です。夏祭りで盛況となる支店の様子を確認する目的で王都に来られる際に巨大なゴーレムを目撃されたとか……」
「やっぱり商人だった。でもバリエンダール商会……、聞いたことがない商会だ……」
王都でBarを営むミナトはお酒や食材のためのフィールドワークと称してよく王都の商会が営む各種の店舗を巡っている。治安も良く住民の収入も安定しているとされる王都だからかどの商会もまっとうな商売をしているという印象が強い。だがミナトはその中にバリエンダール商会という名はなかったと思うミナト。
「そこは仕方がないかと思います。バリエンダール商会は貴族様としか商いをしませんから」
『おお!悪徳商会?貴族と癒着している系?』
貴族と親しいだけで悪徳商会を想定してしまうミナト。元の世界で剣客の親子や印籠を使うお爺さん、さらにはお忍びで江戸の火消しのところに入り浸る征夷大将軍の話が好きだったことの弊害である。『お主も悪よのう』というシーンと台詞が脳裏をよぎったことは秘密だ。
「それでその後で同行したいって言い出した人も知っています?」
ハイテンンションな頭の中をひた隠しにしつつカレンさんへの質問を重ねるミント。
「あの方は……、お名前は存じ上げませんがバリエンダール商会と懇意にしていらっしゃるティジェス侯爵家の方の筈です……」
そう答えるカレンさんの表情が冴えない。
「カレンさん?」
その様子が気になるミナト。
「すいません。少し心配で……」
「どういうことですか?」
ミナトの問いかけに、
「ティジェス侯爵家は王都の南に領地を持つ家ですが、あまり評判がよくなく……、王家には表向きの忠誠を誓っておられますが二大公爵家の皆様とは異なり……」
「別の派閥って感じですか?」
ミナトの問いを頷いて肯定するカレンさん。どうやらお世話になっている二大公爵家と対立している貴族らしい。
『貴族と関係が深い商会の商会長がゴーレムの目撃情報を持ち込んだ……、そうして受付嬢が自分で確かめろと勧めたら懇意にしている貴族の家来が同行すると言って登場……、そいつは王家との関係も微妙……』
そこまで考えて、
『これはゴーレム探しに行ったらきっと何かが起こるでしょ?』
『私もそう思うわ』
『そう思います〜』
『そうなるでしょうね』
ふよふよ。
どうやら思いが念話として漏れ出ていたらしくシャーロット、ナタリア、オリヴィアから同意する念話が届く。ピエールは青色スライムモードでミナトの肩で揺れている。
すると会議室のドアがノックされた。カレンさんが応対すると、
「カレンさん!王城と冒険者ギルドの判断は尊重するが探索した冒険者には信頼が足りぬとしてバリエンダール商会名義でゴーレム再調査の依頼が出されました。B級冒険者パーティ『
そうギルド職員が報告する。カレンさんに目配せし共に会議室を出るミナトたち一行。
既に冒険者ギルドのホールは騒然となり、殺気立っている冒険者も見受けられる。だがそれも致し方ないといえた。
「そこまで言うならあんた達と共に俺達が行こう。同行者も付けるといい」
ミナトの視線の先では
『やっぱり何かある……』
ミナトは見逃さなかった。商会長グンナルと同行を言い出した貴族の家来らしき男の口元がほんの僅かな笑みを浮かべたことを……。
その結果……、調査隊は招かれざる冒険者の同行を許すことになる。米と醤油のためにゴーレムの存在など一切認めないF級冒険者の同行を……。
『隠れて同行させてもらおう。ゴーレムなんていなかったって言ってもらわないとね!』
『いいわね!私も一緒に行くわ!』
ミナトとシャーロット……、そんなヤバい二人が黒い笑みを浮かべていることに気付けたのはほんの数人であったとか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます