第659話 受付で文句を言う商人
星
「ですからゴーレムは見つからなかったのです。依頼を受けた冒険者パーティの報告を元に王城から派遣されました騎士様や斥候を得意とする冒険者が確認しています。『ゴーレムの目撃情報は誤報であった』、王城とギルドはそう判断しました」
かなり熱くなっていると思われる商人風の男性に対して涼しい表情でそう対応する受付嬢。普段は冒険者を相手にしているためか商人などに怯むことはないらしい。
「ふざけるな!そんなことはありえん!そもそもなぜ最初に探索に向かった冒険者の報告というのをそこまで鵜呑みにできるのだ!?冒険者などならず者の集団ではないか!」
ホールに響くその言葉に、真夏であるにもかかわらず冒険者ギルド内の温度が少し下った気がするミナト。
『大丈夫かな?』
そう心の中で呟く。
冒険者とはペット探しや街の清掃から旅の護衛、盗賊の討伐までも、といった様々な依頼をこなす者達である。そして依頼の有無にかかわらず魔物を狩ってはその素材をギルドに卸し、ダンジョンに潜っては様々な資源を採取したりもする。
冒険者のタイプにもよるが基本的には魔物や盗賊との戦いを前提とした職業であるため、その戦闘力は高い。そんな力を一般人に振るうような冒険者も少なくないため、ならず者といった側面があることは否めない。
ただし近年の王都はその限りではなかった。
シャーロットたちが絡んでくる冒険者をぶちのめ……、もとい優しく諭してあげたことで、多くの冒険者が慈愛と自己犠牲の精神に目覚めたのだとか……。
その結果、王都の冒険者は住民から頼りになるお兄さん、お姉さん的な存在になっているという。ちなみにシャーロットたちの教育を何度受けても変わらなかった冒険者達は王都を離れて旅に出たのだとか……、そしてその消息はよく分かっていない……。
そんな空気感と宥める受付嬢などお構いなしに、
「探索に赴いたパーティはB級と聞いたが本当に確かな実力の持ち主であったのか?ゴーレムに恐れをなし逃げ帰っただけで……」
食ってかかるのだが、
「調査はその後も行われました。その結果も同じです。既に街道の封鎖は解かれており問題は発生していません。これはゴーレムがいなかったことの証左と言ってもよいものではありませんか?」
淡々と受け答えをする受付嬢。
『ま、真実としてゴーレムはもう地中深くで自爆してこの世には存在していないからね』
そう胸中で呟くミナト。他人事のように話しているがゴーレム隠しの首謀者はミナトである。
ミナトに頼まれたシャーロットによって自爆寸前だったゴーレムは魔法で地中深くに埋められそこで爆発。だから地上には移動の際に倒された樹々以外では何も残っていなかった。
そのことをミナトから聞いて秘密にするよう協力を要請された
そしてこの国の最上級貴族はミナトたちの力を知っている。
王城やギルドによるゴーレムの目撃情報が誤報であると下す判断は早いのは当たり前といえば当たり前であった。
「そこまで仰るのであれば王城に直接抗議なさるかご自分の目で確かめに街道へ行かれてはいかがですか?」
不毛な会話に辟易したのか受付嬢がそう答えると、
「それは面白い!私もその街道への確認とやらに同行させてもらえないだろうか!」
全く別のところからそんな声が聞こえてくるのであった。
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