第657話 なかったことにする話

 ミナトは現状を説明し鉄の意志アイアン・ウィルに協力を求めた……、その結果、


「なるほど……、それはまた厄介な依頼を……、とりあえずミナトさん達の状況は理解した。俺達鉄の意志アイアン・ウィルは依頼の通りにゴーレムの痕跡を追ってここまでやってきたが、ゴーレムの姿はなかった。街道沿いに危険な魔物は確認できず、ゴーレムの目撃情報は誤報であった可能性が高い。そう報告すればいいんだな?」


 特に笑顔を振り撒いたわけではないが、鉄の意志アイアン・ウィルのリーダーであるウィルはその提案を快諾してくれた。


「そうして貰えるとありがたいです。ウィルさん達に迷惑がかからないといいのだけど……」


 鉄の意志アイアン・ウィルは王都でも名の知れたB級冒険者パーティである。そのような報告をすれば依頼を達成できなかったとして悪評を流される可能性がある。それは申し訳ないと感じるミナトだが、リーダーのウィルと共にメンバーのケルノス、ブラック、アルバンの三人も揃ってミナトの言葉笑い飛ばして、


「俺達はロビンさんとファーマーさん、それに最近はフィンさんもか……、あの人達の指導で俺達は強くなれた。階級こそB級のままだがA級の実力はあるってカレンさん達ギルドの連中や他の冒険者からは認められている。全てはミナトさんのお陰だ!恩人の頼みを断ることなんてするかよ」

「そうだぜ。それくらいお安い御用さ。フィンさんの部下がアンデッドだってことは最初に教えておいてほしかったけどよ……」

「ゴーレムの件は任せくれ。上手く説明しておく」

「心配なんてしなくて大丈夫ですよ」


 そう言ってくれるのだった。一人だけ目に涙が浮かんでいる気がするが気にしないことにするミナト。


「そうと決まれば俺達は王都へ戻るとしよう。カレンさんと報告のタイミングに関して相談だ」


 ウィルの言葉に鉄の意志アイアン・ウィルのメンバーが頷く。


「その前にミナトさんに俺達が依頼を受けた経緯について話しておこうか」


 ウィルによると……。


 この依頼は冒険者ギルドからの指名依頼という形で出されたもので依頼主は非公開だった。


 依頼内容は『未明、王都から南へ延びる街道沿いに巨大なゴーレムの目撃情報あり、王都近郊の雑木林に木々が薙ぎ倒された痕跡を確認した為、冒険者に調査を依頼する』というものだ。


 カレンさんからは必要があればゴーレムの破壊と襲われている者がいた場合はその救助も頼まれていたという。


 王都から延びる街道側は冒険者ギルドと王城の騎士団で完全に封鎖された。


 同じ時期に連絡用の鳩が飛ばされ街道沿いの街から王都への移動も制限されたはずである。


 そして思い返せば王都で騎士を率いていたのはカーラ=ベオーザであったとのことだ。


 そこまで聞いて、


「街道の封鎖はおれ達が出発した後……」


 そう呟くミナト。その辺りにも作為的なものを感じる。


「まあ、そこは大丈夫。おれ達だけをターゲットにしてくれた方がおれ達はやり易い。それにしても公爵家では何か情報を掴んでいたのかな?だから身内のカーラさんを使った?」


「ああ、今となっては俺達を指名したことも公爵家の意向じゃないかって思い始めている。俺達以外を街道に入れさせないってことじゃないか?」


 ウィル達は尾行の気配を感じなかった。あの封鎖状況ではそう簡単に誰かを潜り込ませることはできないだろう。


「時間が経てばミナトさん達を襲った連中がおれ達に監視を差し向ける可能性があるか……。であればすぐに出発だ。ミナトさん達は何も知らない状態で王都に到着する筋書きは維持しないとな」


 そうして一足先に鉄の意志アイアン・ウィルの一行は王都への帰路についた。


「ピエールちゃん!分裂体を広範囲に展開してくれるかしら。他にゴーレムや監視の目がないかを再確認。あったら全て対処して」


『ワカリマシタ〜』


 シャーロット言葉にミナトの外套マントとなっているピエールが分裂体を周囲に放つ。


「シャーロット?」


「ミナト、ピエールちゃんの確認が済んだら私たちも王都に向かいましょう。ゴーレムがいなかったって報告をされ、私たちが無事に王都に到着したことを知った首謀者って連中がどんなことをしてくるか楽しみじゃない?」


 そう言って美しいエルフはいつになく攻撃的な笑みを浮かべるのであった。

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