第654話 姿を現したもの
どうやら重低音は近くの雑木林から聞こえてくるらしい。
「この音とこのリズム……、どう考えても足音だ。何かが近づいてくる」
そう呟きながら重低音が聞こえてくる方向へと進み出るミナト。扱う魔法は極めて強力ではあるがミナトの防御力は普通の人族と大差がない。しかし今は
「そうみたいね。マリアベル!今のあなた達は護衛対象よ。私たちの背後へ!」
ミナトの傍に立つのはシャーロット。マリアベルと一行はシャーロットの言葉に従う。
「ナタリアとオリヴィアは周囲の警戒を!ピエールちゃんもお願いできるかしら?」
さらにシャーロットが指示を飛ばす。
「
そう答えたナタリアが襷掛けに装備している小さなバッグへとその右手を突っ込む。これはミナトの
「畏まりました!」
一礼したオリヴィアがナタリアの傍に立って構えを取る。その全身から発せられるのは銀色を纏った魔力。フェンリル特有と思われるいつでも攻撃を仕掛けることが可能だと感じさせる野生み溢れる裂帛の気合いが周囲の全てを圧倒する。
ナタリアとオリヴィアから伝わる凄まじい威圧感のせいでミナトに模擬戦で吹っ飛ばされつつ命を救われたリオル君が泡を吹いて気絶する。その様子を視線の端に捉えつつ心の中で手を合わせるミナト。
『分裂体放ちマス〜』
ミナトの
そうした戦闘準備を整えたところで雑木林の樹々を薙ぎ倒しながら姿を現したのは、
「ゴーレム!?」
ミナトが思わずそう呟くように、彼らの前に現れたのは巨大な人型のゴーレムであった。だが……、
「シャーロット……、あれってどう戦うのかな?」
思わずシャーロットに問いかけるミナト。シャーロットも首を傾げている。
これまでミナトが目にしてきたゴーレム……、例えばピエールが最下層に出現したことで異常をきたした世界最難関ダンジョンの一つである『地のダンジョン』では某連合と企業間の戦争という映画に登場したものによく似ている兵器っぽいものや胸から炎を出し凄まじい速度で移動してパンチを放つ人型タイプなどがいた。
しかし目の前にそれはこれまでのゴーレムとは全く異なる人型をしていた。言葉で表現するのであれば、
「丸すぎじゃない?」
思わず言ってしまうミナトである。
ミナトの言葉通りその巨体は球体に近いずんぐりとしたものであった。移動することがやっとだと思われる極太の短足の上に球体を思わせる上半身が乗っかり肩と頭部の区別が難しいくらいである。申し訳ない程度の長さしかない腕は太さはあれどとてもパンチを繰り出すことに向いているとは思えなかった。
そんなゴーレムがミナたちの方へとその巨体をゆっくりと向ける。その動きは酷く遅く、酷くぎこちないものであった。
それでもミナトは油断なくゴーレムへと鋭い視線を向ける。
「シャーロット?燃やしても大丈夫かな?」
ミナトが扱う【闇魔法】の
「ちょっと待って!なにか変だわ。あんなの攻撃を当ててほしいって言っているようなものじゃない?ああいうのって衝撃を与えると何かが起こったりするのよね。わたし達やピエールちゃんのいるミナトなら何があっても大丈夫だけど今回は護衛対象がいることを忘れちゃだめよ」
そう言われてミナトは衝撃を与えると爆発する見た目が大変にグロテスクな魔物を思い出す。
「アニムス・ギアガのゴーレム版なんて嫌すぎるんですけど!?」
「まだ断定はしていないわよ?」
そう言い合うミナトとシャーロット。
アニムス・ギアガ……、下半身は幾種類かの魔物のそれを継ぎ足して造られたかのような縫い目も痛々しい巨大な二本の足で構成され、上半身……、そう言っていいのかすら分からないが、足より上は盛り上がった巨大な肉塊に乱雑かつ巨大な歯を並べた大きな口が一つだけ。そして口がついている肉塊には夥しい数の人族や亜人のパーツがこれでもかと填め込まれている姿をした魔物。そしてアニムス・ギアガは膨大な魔力を蓄えた爆弾という側面をもっていた。
「あ、ゴーレムだから
そう呟くミナト。これまでアニムス・ギアガを葬ってきた手段は使えそうにない。
【重力魔法】
攻撃系極大重力魔法。触れた者だけに作用する小型で超高質量かつ超重力の物質を高速で放ちます。触れた者はその物質に飲み込まれ二度と出てくることはできません。生物のみに使用可能。ある程度の質量がある無生物や他の魔法が触れた場合、何ごともなく消滅するので遠距離からの使用には注意が必要です。躰に纏った結界や衣服でも消滅するので必ず直に当てられるよう使用しましょう。
どうしたものかとミナトが思考を巡らせていると、ゴーレム内部から巨大な魔力反応を感知するのであった。
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