第653話 王都へ至る街道にて

 そしてミナトたち一行と護衛対象である星みの方々は王都を目指して出発した。


 未だ早朝、空には朝焼けのオレンジ色が残っている。しかし今は真夏、気温はすでに高めであった。


 星みの方々の里を出発して今日が五日目、予定通りなら昼過ぎには王都へ到着することができる。


 ミナトたちが滞在した宿場町から王都へ向かう場合、ここまで早い時間帯に出立する者は少ない。ゆっくり出発し夕刻に王都へと到着、美味い酒と料理で旅の疲れを癒すというパターンが多いという。


 出立の時刻はシャーロットの助言でミナトが決定した。ここから先の街道は人通りが多くなる。刺客や魔物による襲撃があった場合に騒ぎを大きくさせないためである。


 今回の首謀者はおそらく王家の権威失墜を狙っている。王都で愚かにもフィンの部下を襲った者が現れたことも、王家が冒険者ギルドとの関係性を強めようとすることへの妨害のように思われた。


 王家は祭事などが行われる際、星みの方々を招いて儀式を行っている。そんな星みの方々が襲撃された騒ぎになることは避けたいミナトであった。しかし、


『王都の住民とか街道を使う商人を無差別に襲撃しても同じ結果にならないかな?』


 ふとそんなことを考える。王家の権威失墜を狙うなら王都や街道沿いの治安を脅かすことでも可能ではと思ったミナト。


『王家に結びつくことじゃないと効果が薄いって考えているかもしれないわね。それか破壊工作じゃなくて嫌がらせをしたいとか?』


『嫌がらせね……。これが貴族の暗闘のようなものならそれもありうるかも……』


 そうシャーロットからの念話に答える形で心の中で呟くミナト。


 ルガリア王国は安定した大国として知られているが貴族同士の諍いや王位を巡る暗闘はそれなりにあるらしい。その辺りのことに関心のないミナトであるが自身のBar常連さんにはルガリア王家や二大公爵家の者達がいる。さらにお酒を仕入れる関係でいろいろとお世話になることもあり、無関係であるとはとてもいえない。


『とりあえず道中なにも起こらなかったって報告できるように先を急ごうか?』


『この状況では情報が足りないからそれでいいと思うわよ』


 シャーロットはそう言ってくれるが、


『不届な刺客や魔物をこの手で両断できないのが残念です〜』


『私も戦闘面で貢献できておりません』


 ナタリアとオリヴィアからそんな念話が聞こえてきた。


『さすがに人目の多い街道沿いでナタリアの大剣による両断とかオリヴィアの爪で四枚下ろしみたいな光景はダメかな……』


 心の中に乾いた笑顔を浮かべつつ答えるミナト。


『ここはワタシの出番デスネ〜』


 ミナトの漆黒の外套マントからそんな念話が聞こえてきた。


 そんな話を念話で繰り広げつつミナトたちと星みの方々の一行は歩みを進めた。


 そうして太陽が高くなり、王都まであと少しというところに差し掛かったところで、


「シャーロット……」


 状況に違和感を覚えたミナトがシャーロットに声をかける。シャーロットがその場に立ち止まり周囲へと視線を向け、


「そうね……、気に入らないわ」


 そう呟いた。


「そうですね〜。わたくしも気に入りません〜」

「同じく……」


 ナタリアとオリヴィアも何かを感じ取ったらしい。


『マスター、警戒ヲ!』


 ピエールも念話でそう伝えてくる。


「シャーロット様……?」


 話しかけようとしたマリアベルを片手で制したシャーロットが、


「王都のこんな近くにある街道でこの時間帯に誰もいないなんて不自然すぎるのよ……」


 そう呟くのと同時に、


 ズシン……、ズシン……。


 大地を揺るがすかのような重低音が周囲に響き渡るのであった。

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