第652話 不穏

 星みの方々の里から王都までは徒歩で五日ほど。


 ミナトたちF級冒険者パーティ『竜を饗する者』が護衛を務める星みの方々の里の一行は五日目の朝を街道沿いにある宿場町の宿屋で迎えていた。このまま問題がなければ今日の昼過ぎには王都に到着することができる。


 元々、星みの方々の里のある森に剣呑な魔物は少ない。それにルガリア王国では街道もよく整備され王城から指示を受けた騎士や冒険者ギルドから依頼を受けた冒険者が魔物や野盗の討伐を行っている。総じてこの移動は比較的安全なものであり、ミナトたちによる護衛は形式的なものであるというのが一般的な認識であった。


 そうして意気揚々と星みの方々の里の者達が出発の用意をしている隣の部屋、ピエールをカウントされない四人部屋に宿泊したミナトたちがテーブルを囲んでいた。テーブルの上には本来の姿である虹色球体モードのピエールがふよふよと揺れている。


「シャーロット、マリアベルさんは気付いていたんだよね?」


 ミナトの問いかけに頷きつつ、


「そうね。天から降る星を詠う一族スター・シーカーである彼女は優秀な斥候であり、星を詠って未来が読めるから……、ま、里の者達を不安にさせたくないってところかしら?里でミナトと戦ったところも見ていたけどマリアベルは一族の戦闘技術については余り多くは教えていないみたいだし……」


 そう答えるのはシャーロットである。


「王都の街道は比較的安全か……、里に向かうときは間違いなく安全だったのに……」


 これまでの四日間を思い出してミナトがそう呟くと、


「明らかに何者かの作為を感じるわね」


 不快感を滲ませつつシャーロットがそう言うと、


「マスターを狙うとはなんと愚かな連中なのでしょうか〜、これは首謀者に一太刀入れないと気が済みそうもありません〜」


「ナタリア様の剣など畏れ多いです。私の爪で十分です。美しい四枚下ろしにして差し上げましょう」


『ワタシが溶かせば証拠は残りまセンヨ〜』


 今回の護衛依頼に参加しているナタリア、オリヴィア、ピエールもそう続ける。


 往路におけるトラブルらしいトラブルが森の中で絡まれた冒険者っぽいならず者の一件だけだったため、ミナトは復路をとても楽観視していた。護衛任務を無視することはできないが居並ぶパーティメンバーが強者ばかりのため夜などは交代で王都に戻れそうだとも思っていたのである。


 しかし現実はミナトの予想と大きく異なるシナリオを用意していた。


 森では多数の魔物に襲撃され、街道に出てからは毎晩のように刺客が送り込まれてきたのである。


 ここまでの四日間はミナトたち自慢の索敵能力で星みの方々の面々が気付く前に全てに対処をしてきた。マリアベルは気づいていたようではあるが……。


 戦闘ではピエールの分裂体を中心に処理する形を採用し、表面上はミナトたちには何もトラブルが起こっていないという状態を維持している。


 そうして分かったことはどうやら魔物や刺客は星みの方々だけでなくミナトたちをも狙っているらしいということだ。


「首謀者はおそらく往路で絡んできた冒険者の雇い主かそれに連なる者……、かな?」


「そんなところでしょうけど……」


 ミナトの言葉にそうシャーロットが返すが確証はなかった。試しに一人捕らえてシャーロットが魔法でいろいろと問い詰めたが何も情報は持っていなかったのである。


 鬱陶しいので王都に転移テレポで移動することも考えたが、この連中の目的がルガリア王家への嫌がらせであった場合、ミナトたちを見失った魔物や刺客が他の者に手を出す可能性を考慮し、四日間に渡って魔物や刺客へ真面目に対処したミナトたち一行。そんなこともあって楽しいことをする気分にはとてもなれない四日間であった。


「ピエールの分裂体に王都へ戻ってもらってデボラから冒険者ギルドのカレンさんには報告してもらっている。王都に戻れば何か情報が集まっているんじゃないかな?まずは何事もなかったという形で王都に帰ろう」


 全ては王都に戻ってから……。護衛は夏祭りの期間中続く。まずは星みの方々を無事に王都へ連れて行くことに注力することを決めるミナト。


「そうね。街道に出てから魔物は少ないし昼間は刺客も少ない……、ってあんな数の刺客が行方不明になったらさすがに刺客を依頼された側も断るんじゃないかしら?」


 シャーロットそう返すと、


「一人ぐらいは見せしめにしたいところですが、今回は我慢します〜」


「首謀者については私にご命令を!」


『王都まで護衛ガンバリマス〜』


 ナタリア、オリヴィア、ピエールがそう言ってくる。


 ミナトはシャーロットに同意し、好戦的なナタリアとオリヴィアを宥め、ピエールに王都までの活躍をお願いするのであった。

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