第649話 騎士たちから話を聞こう

「その時の様子ですか?えーっと……、冒険者っぽい四人組でマズそうっていうのは覚えているんですけど……」


「そうそう!王都やマスターのお城で食べるものが美味しすぎてもうあんなの食べようなんて思わないよね?」


 足湯とアイスを楽しみつつそう話すのはモフモフのケモ耳をした二人の女性。狼の獣人と狐の獣人でどちらもとても美形であるが何やら話している内容が怪しい。


 ミナトは王都で襲われたというフィンの部下である黒薔薇騎士団ブラック・ローズのメンバーから話を聞くことにした。最初はこの二人である。見目麗しい狼の獣人と狐の獣人だがその正体は筋骨隆々な肉体派のグールだったりする。一応、現在の姿でも人族や亜人を捕食することは可能らしいが彼女たち曰く『あんな不味いものはもう食べたくない』とのことだった。美食に目覚めたグールさん二人組である。


「何か言っていなかったかな?」


 とりあえずそう聞いてみるミナト。


「あ……、ほら、なんかニヤニヤしながら、これも仕事だとかなんとか言っていなかった?」


「そうだっけ?態度がウザすぎて死なない程度に全員の首を折ったことしか覚えていないわ」


 獣人の姿になっても武闘派らしい。


「首の骨……、ソウデスカ……」


 ならず者は恐らく冒険者、他に仲間がいれば冒険者ギルドに担ぎ込まれたかも知れない。冒険者の行動は基本的に自己責任だ。そんな冒険者が自分達の手に負えない負傷を負った場合、神殿やギルドでは有料で治療をしてくれる。首の骨を折って瀕死だとかなり高額な治療になるはずだが……。カレンさんに迷惑がかかっていないことを祈るミナトである。


 彼女たちからそれ以上の情報はなく、ミナトは別の二人に聞いてみることにする。


「私たちの時は三人組でしたよ。あの時は笑いながら……、恨むなら……、なんとかって……、言ってなかったかしら?」


「たしかにそのようなことを言っていたような気もしますが、すぐさま魔法を打ち込んでしまったので……」


 そう話してくれるのは人族の姿をした二人の女性。金色の長髪にキメの細かい白い肌、そして大変に美形なのだが正体は二人ともその圧倒的な魔法攻撃で二千年前の大戦時、非常に恐れられたレイスである。


「路地の暗がりに連れ込もうとしたので、魔法で吹っ飛ばし、精神攻撃で記憶を消して改変し二度と恐慌状態が解けないように固定して棄ててきましたけど……」


「殺された方が幸せだったかな?」


 こちらもきちんと激しめに対応したらしい。


「精神を……、ソウナンダ……」


 冒険者ギルドの治療施設が混雑しないこと祈るミナト。心の中でカレンさんに手を合わせるのであった。


「ミナト、襲った連中は彼女たちを知らなかったってことでいいのかしら?」


「おれもそう思う。彼女たちをフィンの部下って知っていて襲うなんてありえないよ。王都の闇組織ならそんな依頼断るだろうし……」


 シャーロットの言葉にミナトが返す。


 彼女たちがフィンの部下であり黒薔薇騎士団ブラック・ローズと呼ばれる騎士団の一員であることは王都の冒険者で『フィン様と見目麗しい言葉にできない仲間達と行く本格野戦訓練』に参加した者であれば知っている。そして参加した冒険者が『死にたくなければ彼女たちには絶対に手を出すな』と他の冒険者に真っ青な表情で周知させているため、彼女たちを襲う者は王都にはまず存在しない。


「……ということは、誰でもいいから女冒険者を襲えって依頼か命令を受けたならず者の冒険者って感じかしら?」


 シャーロットにそう言われてミナトは頷く。


「王都には衛兵も多いから住民に手出しは難しい。だけど冒険者であれば全てが自己責任。だから女性の冒険者を狙うことにした。だけど王都に冒険者のほとんどはパーティ組んでいるし女性だけのパーティは少ない。A級のティーニュさんはソロだけど彼女を襲うのは現実的ではないとすると……」


黒薔薇騎士団ブラック・ローズであることを知らなければ女性だけで行動している彼女たちは恰好の獲物に映ったってことね。何者かしら、こんなことを考える連中って……」


 ミナトは考えるが情報が足りない。しかし、


「国王……、マティアスさんが今回の夏祭りの件で各国の大使に言った言葉への嫌がらせ……、かな……」


 そう呟くミナト。


 現在、ルガリア王国は国と冒険者との連携に力を入れている。そのこともあって国王マティアス=レメディオス=フォン=ルガリアは各国の大使へと事前に通告した。


「我が国の冒険者へその身分を笠にきた理不尽な要求をするのであれば、相応の報いを受けることになるだろう。特に容姿が美しいから我が物にしようなどという愚かな行為はその身を破滅に導いても文句は言えないものと心得よ」


 カレンさんから聞いた話を思い出すミナトであった。

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