第648話 いろいろと報告を

 フィンの部下たちも加わりよりいっそう賑わう足湯コーナー。そんな中、


「うむ……。それでマスターたちは明日出立して王都に向かわれると?」


 優雅に足先を浸しつつ二つ目のアイスクリームに取り掛かろうとしているデボラがミナトに問いかける。


「予定ではそうなるかな。マリアベルの他に里の住民が四人、計五人を護衛して王都に向かうって感じ?」


 ミナトがそう答え、


「そうね。どこかの貴族の手先みたいなのが地図を求めてちょっかいを出してきた以外は特に問題もなかったし。あの連中もピエールちゃんが綺麗に全滅させたし……」


 シャーロットがそう付け加える。


「あれは見事なお手なみでしたね〜」


 ナタリアが笑顔でそう言うと、


「斃しマシタ〜」


 シャーロットの膝の上でアイスを食べているピエールもそう返す。ピエールもいたくアイスが気に入ったご様子だ。


「うむ。どこぞの貴族がマスターの邪魔を?」


「人数も多かったしあの連中の装備は充実していたから貴族がらみかなってね。ただ王都を拠点にしている貴族ではないと思う」


「うむ。何か根拠が?」


「それほど明確なものじゃないけど、連中を後方から見張っていたらしい監視役は作り物デコイの使い手だったんだ。全員まとめてピエールが溶かして存在全てを消滅させたけどね。最近の王都では作り物デコイの魔法は禁忌であるって御触れが貴族の間で徹底されている。王都の貴族が作り物デコイの使える部下を持っていてもこの時期に使ったりはしないと思うんだよね。バレた時がヤバいから」


 そう自身の考えを伝えるミナト。ルガリア王国は安定した平和な国ではあるが貴族間の暗闘がないわけではない。当然、作り物デコイが使えるような部下を諜報などの任務に就かせている貴族はいるだろう。


 しかし貴族は馬鹿ではない。王家が禁忌として厳しく取り締まると宣言した魔法である作り物デコイを使っていることが明るみに出れば家は取り潰されることになる。そんなリスクは取らないであろうというのがミナトの見解であった。


「夏祭りを口実に王都へやってきた地方の貴族か、別の国から来た貴族か……」


 恐らくはその辺り……。頷くデボラに、


「そっちはどうだったの?デボラはミオ一緒に第一王女様の護衛について打ち合わせに行ってきたんだよね?」


 そう問い返すミナト。


「うむ。内々でということからウッドヴィル公爵家の屋敷に行ってきたぞ。今回、我らは鉄の意志アイアン・ウィルの四人やティーニュと共に冒険者の護衛としてカーラ=ベオーザの配下として動くことになりそうだ」


「ん。みんな一緒!」


 美味しそうにアイスを頬張りながらそう言ってくるデボラとピースサインと共に笑顔でミオもそう言ってくる。


「カーラさん、大丈夫かな……?」


 思わずそう呟いてしまうミナト。


 王都の冒険者ギルドではロビンとファーマーさんによる、『ロビンちゃんの楽しい地獄のダンジョン戦闘訓練』と『ファーマーさんと学ぶ素敵なヤバい魔法実技』という二つの講習会をこれと見込まれた冒険者に受講させている。


 それらに参加している冒険者の中でもA級冒険者のティーニュとB級冒険者パーティ鉄の意志アイアン・ウィルの四人は別格と呼ばれるまでに成長していた。


 そしてこの春からミナトのパーティにフィンが加わったことで『フィン様と見目麗しい言葉にできない仲間達と行く本格野戦訓練』が設けられることとなった。ティーニュと鉄の意志アイアン・ウィルの四人はフィンからも『見所がある』と評価されている。


 ちなみに鉄の意志アイアン・ウィルはリーダーのウィルに、ケルノス、ブラック、アルバンの三人を加えた四人組のパーティである。


 ちなみに……、初めてフィンとその部下達に引き合わされた時、鉄の意志アイアン・ウィルの四人はフィン以下全員が美人な黒薔薇騎士団ブラック・ローズを前にロビンの教訓を忘れて新たな出会いという希望を歓迎した。ただ、その希望はフィンによる『炎を纏って皮膚と筋肉が焼け爛れ落ちた先から剥き出しの黒い骨格が現れる』という新バージョンの変身と部下の真の姿を目の当たりにして粉々に砕け散ったとか……。


 いろいろと言いたい部分はあるがそんな現在において王都最強格の冒険者とされるティーニュと鉄の意志アイアン・ウィル、そんなミナトとも所縁の深い冒険者を配下としてあてがわれたカーラ=ベオーザの胃の調子が少し心配になるミナトであった。


「うむ。我らのところはまだ問題はない。だがマスターよ。王都でも少しおかしなことが起こっているようだぞ?」


「おかしなこと?」


「うむ。今の所は実質的な被害者が出ておらぬし気のせいかも知れぬといったところなのだが……」


「気になった?デボラが気になったのであれば興味があるね。詳しく教えてくれない?」


「うむ。この件についてはフィンが詳しい」


 そういうわけでフィンを呼ぶミナト。デボラから聞いたことを問いかけると、


「ああ、そのことですか……、実は冒険者として活動している部下たちが立て続けに襲われる、という事態が発生したのですよ」


 その回答に首を傾げるミナト。フィンの部下である黒薔薇騎士団ブラック・ローズのメンバーは何組かに分かれて冒険者として王都で活動をしている。本来の姿は凄みのあるアンデッドなのだが、生前の見目麗しい美人の姿で活動しており冒険者ギルドでも人気者だ。


 一昔前であればちょっかいをかける冒険者や暗がりに連れ込もうとするならず者が多かったかもしれない。しかし現在の王都ではそんな連中は皆無である。シャーロット、デボラ、ミオを始めとする美人冒険者の教育的指導破滅の見学会でそんな連中は霧散した。


 今や王都の冒険者は住民から頼りにされる心強い存在なのである。


「夏祭りを理由に王都へきた連中?」


「恐らくは……」


 ミナトの言葉にフィンがそう言って頷く。ミナトはもう少し詳しい話を聞くことにするのであった。

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