第646話 美味しくて楽しいひと時

 新たなカクテルであるミドリ・アレキサンダーがこの世界で初めて造られた夜、星みの方々の里では里をあげての大宴会が開かれた。


 その発端となったのはミナト。


 バニラビーンズとミドリを購入したかったミナトがお金に加えて里の全員が満足できる量のブランデーを樽で振る舞ったことが原因である。


 どうやら星みの方々は皆さんお酒が好きらしくその喧騒は深夜まで続いたとか……。


 そんな宴会が開かれている星みの方々の里から遠く離れた大森林の最奥部……、


「うーん……、夏の夜風が心地よい……、ここって本当にダンジョンなのかな……、ま、それはいいとして、足湯に浸かりながら夏の星空を見上げつつ食べるアイス……、至福……」


 そんなことを呟きながらバニラアイスをスプーンで掬い口へと運んで感動しているミナト。


 バニラビーンズとミドリを分けてもらったミナトは星みの方々の里での宴会に興味を示すこともなく、『明日は出発だから早めに休ませてもらいます』と伝えて一行が割り当てられた部屋へと引っ込んだ。そして気配を消しつつバニラビーンズを試すことも兼ねて転移テレポでミナトのお城へと一時帰還を果たしていた。


 もはや旅という概念が微妙になってきているミナトである。ちなみにバニラビーンズとミドリはきちんとした代金を支払って入手している。


「これが足湯なのね……。こんな場所があったなんて知らなかったけどこれはこれで気持ちがいいし趣があるわ!それにこのあいすくりーむ?があると最高ね!」


 ミナトの隣で美味しそうにアイスクリームを味わっているのは絶世の美女エルフ。たくし上げた浴衣から覗く白い美脚が温泉に使っている様子は目に過剰な栄養を運んでくる。


「うむ。これは美味い。これがマスターによる此度の戦利品なのだな。それにしてもマリアベルとは懐かしい名を聞いたものだ」


 シャーロットの隣にいるデボラもいたくアイスが気に入った様子である。後ろでまとめた真紅の美しい髪、やや着崩された浴衣姿で引き締まった長い足を足湯に浸けている様子はとても扇情的である。


「ん。懐かしい名前、でも今はこっちが大事!この組み合わせは最高!」


 さらにその隣、こちらは浴衣姿のミオが足湯をぱちゃぱちゃとやっている。可愛らしさと美しさが高次元で融合したその光景に後で誰かに謝らないといけないような感情が湧いてくるのは秘密である。


「足湯は気持ちよくて、アイスは美味しいですね〜」


 さらにさらにその隣、こちらもエプロンドレスではなく浴衣を纏ったナタリアが笑顔だ。ナタリアの浴衣姿……、美しいことは十分知っているが、なぜ肩をそこまで見えるくらいに着崩す必要があるのか……、胸の上半分は星空の下に晒されている。その圧倒的な色気に目眩のような感覚を覚えてしまうミナトであった。


 ここはミナトのお城にある温泉施設。屋内であるはずなのだが何故かダンジョン化してしまい朝晩、季節、さらに空も風もあるといった完全に屋外と同等な広大な空間を擁する温泉郷へと様変わりをしてしまっている空間である。


 ピエールが分裂体で探索してくれているが全貌は未だ調査中ということだった。


 王都に戻って夜でも賑わっているマルシェでアイスクリームの食材を買い込みバニラアイスを製作したミナト。せっかくだし温泉に浸かりながら……、と考えたミナトが温泉施設へ行ってみると何故か非常に立派な足湯のコーナーができていたというわけなのだ。


 そこでアイスクリーム作りを見学していたシャーロット、デボラ、ミオ、ナタリアとこのような状況になったというわけである。いや……、オリヴィア、ピエール、ロビン、フィンもすぐにやってくること分かりきっているのだが……。


 とりあえずミナトは心地よい風と足湯とアイスを楽しむのであった。

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