第644話 ミドリ・アレキサンダー完成
「シャーロット様?いったい何が始まるのですじゃ?」
「とりあえず見ていなさいマリアベル。驚くわよ?」
首を傾げるマリアベルにシャーロットがそう返答する。
ここは依然として里の役場として利用されている建物の一室。ミナト達一行に割り当てられた大きな五人部屋である。二つの長椅子と大きなテーブル、そしてとても大きなベッドが二つ。
そんな備え付けられていたテーブルの上に置かれるのは、人数分のショートグラス、シェイカーにバースプーン、そしてジガーとも呼ばれるメジャーカップ。
ショートグラスはドワーフのガラス工芸家アルカンの作であり、シェイカー、バースプーン、メジャーカップはアルカンの弟であるバルカンの作である。
ちなみにシェイカー、バースプーン、メジャーカップは全て銀製だ。元の世界にも銀製の道具はあったのだが、銀は極めて酸化しやすい。そのため保存と維持に手間がかかりすぎお店では使用できなかった。しかしバルカンが状態維持の加工を施してくれたためこのように使えることになった。このことにはミナトも大満足である。
さらに用意されるのはフィンたちが所持していた最高級品を模してアースドラゴンの里で造られたブランデー。フィンたちのブランデーの製造方法は既にアースドラゴンたちに伝えられており、ウイスキーだけでなくブランデーも積極的に製造され現在は熟成中である。時短できる魔道具の研究と併せて将来が楽しみなミナトであった。
さらに小瓶に入れられたミドリと呼んで差し支えない品質のメロンリキュール。
そしてこれは素早く発動した
ブランデー、ミドリ、生クリームで造るシェイクのカクテル。
「シャーロット!グラスを冷やすのをお願いできるかな?」
「任せて!」
そう答えたシャーロットの手が青く輝き、途端にショートグラスの外側が凍りつく。
その様子を視界の端で確認しつつ、ミナトはシェイカーにブランデーを注ぐ。そしてミドリと生クリーム。
ブランデーが三〇mL、ミドリと生クリームが一五mLずつ……、が基本なのだがちょっと調整してグリーンを映させることにするミナト。
「ミナト?それがミドリアレキ……?」
「ミドリ・アレキサンダーだね」
シャーロットに笑顔でそう返すミナト。
「元々アレキサンダーっていうカクテルがあるんだ。ジンかブランデーを使うんだけど、おれとしてはブランデーを使う方が多いかな……。ブランデーとクレーム・ド・カカオっていうリキュール、それに生クリームを使ってシェイクで造るのがアレキサンダー。これはクレーム・ド・カカオの代わりにメロンのリキュール……、おれのいた日本ではミドリってお酒と似てるからもうミドリって呼んじゃうけど、そのミドリで造るカクテルだからミドリ・アレキサンダーって言うんだよね」
「バリエーションってことかしら?」
「そういうことになるかな?これはこれで美味しいんだよ」
そう答えつつもシェイカーの中身をバースプーンで撹拌するミナト。手の甲へと一滴、味を確認して頷くと、
「シャーロット、氷をお願いします」
「シェイク用ね。こちらもお任せあれ!」
シャーロットが手を振るとシェイクに使うのを前提にしたかのようなちょうどよい大きさの透明な氷が空中に複数出現する。ふわふわと浮遊する氷は静かにシェイカーへと納められた。
「グラスをお願いします」
ミナトのその声に反応してシャーロットが手をかざすとショートグラスを覆っていた氷が弾け飛んで虚空へと消える。これでよく冷えたショートグラスが用意されたことになる。
シェイカーにストレーナーとトップを被せる。流れるような所作で構えると素早くシェイク。しっかり混ぜ合わせつつ適温まで冷やす。生クリーム使っているのでしっかりとシェイクすることが肝心だ。
そして一連のその所作は相変わらず美しい見事なものである。
「これは……、なんという見事な……、洗練された無駄のない動きじゃ……」
マリアベルがその光景を前にそう呟いたのが耳に届いた。
シェイクが終りシェイカーからトップを外すと出来上がったカクテルをよく冷えたショートグラスへと静かに注ぐ。それを人数分。
「ミドリ・アレキサンダーです。どうぞ!」
そう言ってミナトは静かに最初のグラスをシャーロットへと差し出すのであった。
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