第643話 まずはアイスその次に……

 小瓶の中身がとても気になるミナトだが一年以上ぶりのバニラアイスもまた捨てがたい。


 鮮やかなグリーンを湛える小瓶を視界の端に捉えつつ、


「アメリカンな食事に温泉、そしてトニック・ウォーター……、その次はアイス。これはヒロシさんに感謝だね……」


 そう呟き、


「ありがたや……」


 感謝の祈りを捧げつつスプーンで一口……、そんなミナトにシャーロット、ナタリア、オリヴィア、いつの間にか幼女モードになっているピエールも続く。


 よく知っている冷たさと甘さとバニラの風味……、どうやらバニラビーンズを使った本格的なやつらしい。


「見事……」


 思わずそう呟くのはミナトである。


「美味しい!私が知っている氷菓とは全然違うわ!ミルクを使っているけど生クリームとも違う……、柔らかくて滑らかでそれでいてミルクの味と香りが濃厚で……」


「この独特の甘い風味が素敵です〜」


「これは素晴らしい味わいです。氷菓というと氷を細かく砕いたものに果汁をかけるものと思っていましたがこれは……」


「オイシイデス〜」


 女性陣からも絶賛する言葉が聞こえてくる。どうやらシャーロットとオリヴィアの話から察するにこの大陸の氷菓とは砕いた氷に果汁をかけたもの……、かき氷に近いものらしい。


「ミナト!これがあなたに世界の氷菓なの?」


 そう問いかけるシャーロットに笑顔で頷くミナト。


「間違いなくおれのいた世界のバニラアイス……、それもかなり本格的に作ったバニラアイスの味がするね」


「あなたのいた世界って食文化が進んでいるのよね?こういうのが他にも……?」


「ああ、このバニラアイスはベースがミルクのお菓子でアイスとかアイスクリームと呼ぶジャンルってことになるのかな。このアイスクリームだけでも数え切れないくらいの種類があってさ、これは生クリームにバニラビーンズって香辛料を混ぜたものだけど、チョコレート、コーヒー、抹茶、イチゴ、オレンジ、バナナ、ブドウ、チョコミント……、本当にいろんなアイスがあったよ」


「すごいのね……、それでこのアイスってミナトも作れるのかしら?」


 どうやらシャーロットはバニラアイスをいたく気に入ったらしい。そんなことを聞いてくる。その背後には何らかの想いが籠った視線を投げかけてくるナタリア、オリヴィア、ピエールもいる。


「バニラビーンズとかは手に入るか分からないけど、ミルク、生クリーム、卵、それに砂糖があればあとは冷やしながら混ぜるだけだから……」


 思った以上に圧を感じつつそう答えるミナト。家庭で冷凍庫を使わずにアイスを作る場合、かなり冷たくする必要があるのだがこの世界には魔法がある。そこまで難しくはないのだ。


「マリアベル?」


 そう言って振り返るシャーロット。笑顔が怖い。


「はっ!バニラビーンズは数は採れませんがこの里で栽培と加工を行っておりますじゃ」


「そんなに量が必要なものではなさそうね。少し分けてもらえるかしら?」


「もちろんですじゃ……」


「なによ?略奪なんてしないわよ?」


「は、はは……」


 そんな会話が続いているがミナトは改めて小瓶に注目する。


 アイスクリームが乗せられた皿の端に少し垂らしてスプーンで掬って味見をする。既に感じているこの香りは間違いなく……、


「これはもうミドリって呼んでもいいんじゃないかな……」


 思わずそう呟くミナト。この香りと味はまごうことなきメロン。小瓶を満たしていたのはメロンリキュールであった。


「フィンのおかげでブランデーもある。クレーム・ド・カカオがなかったからブランデーを使ったアレキサンダーは作ってなかったけどこれがあれば……」


「ミナト!これもお酒だったのね?」


「そう!これがあればミドリ・アレキサンダーってカクテルが作れるんだ」


 シャーロットにそう答えつつ会心の笑みを浮かべるミナトであった。

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