第637話 会議室にて
「世界の属性を司るドラゴンをテイム……、それもシャーロット様の魔法を上書きして……」
呆然と呟くのはマリアベルである。
「そして王都にシャーロット様とドラゴンが……、王都が魔都になっておる……。昨年から聞こえてきた星々の騒めきは王都の断末魔であったか……」
虚空に視線を彷徨わせながら追加でそんなことを呟いている。
「なに言っているのよ?私たちは楽しく暮らしているだけで特別なことはなにもしていないわ!」
しれっと答える美人のエルフに、
『それはちょっと違うかもしれない』
そう心の中でツッコミを入れるミナト。この世界にやってきて一年と少し経つが、公爵家の騒動、グランヴェスタ共和国でのもろもろ、冬の王都でのあれやこれや、そしてつい最近の神聖帝国ミュロンドを相手にした行動、結構いろいろなことをやっている気がするミナト。
その結果として、ルガリア王家は東方魔聖教会連合の存在を知ることとなり、王家や二大公爵家においてはミナトたち冒険者への理解も深まった。そんな冒険者達はシャーロットらによって圧倒的な力による教育を施され王都の住人として相応しい態度を心身に刻み付けられた。そして最近ではロビン、フィン、ファーマーさんの教室のお陰もあってか粗野な一面こそ垣間見えるが王都の頼れる存在として住民から認識され始めている。
冒険者を無法者の集団だと切り捨てるような住民は恐らくはもう王都にはいない。
このような状況になったきっかけは間違いなくミナトたちであると言えた。
そんなことを考えながら、ミナトは先ほど思った疑問をシャーロットに投げかける。もちろん念話を使うことは忘れない。
『シャーロット。オリヴィアとピエールの紹介を簡単にして、ロビンとかフィン、それにファーマーさんのことも話していないけど、どうして?』
『ミナトの
『だけど?』
『みんなきっと忙しいと思う。デボラとミオは第一王女を護衛する打ち合わせがあるって言ってたし、ロビンとフィンは夏祭りの本番までに可能な限り冒険者を鍛えてみせるって言っていたわ。ファーマーも出店の検討をするって言っていたしね』
『それが理由?』
『ふふ……、ここで全部話しちゃったらつまらないでしょ?それに……』
『それに?』
『ミナトの索敵能力だとこの気配を敵とは認識しなかったみたいね。ほら、来たわよ』
その瞬間、会議室のドアが勢いよく開かれる。ノックすらないその行動は冒険者とはいえ少なくともルガリア王家からの正式な依頼で訪れた使者への正しい対応とはとても言えないものであった。
「私は納得できません!」
そこにはそう言い放つ男性とその背後に女性が一人。二人とも随分と若いがどうやら住人のようだ。
『はい?』
表情に出さずに驚くミナト。どうやら【保有スキル】の泰然自若が作動しているようだ。
『この会議室って外部から監視されていたみたいよ?私の話に異議でもあったんじゃない?』
念話でそう返しながらシャーロットが片目を瞑ってみせる。
『おれが里の魔導士を圧倒しちゃったし……、長老は認めているよそ者の所業を素直に認められない里の若手が絡んでくる……、あ、なんかテンプレっぽい感じになってる?』
ミナトは心の中でそう声を上げるのだった。
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