第633話 やっと自己紹介をするけれど

「やっちゃった……」


 星みの方々のリーダーであるマリアベルから聞きたくない単語が聞こえそうだったため思わず結構本気で闇魔法を展開してしまったミナト。


 展開された漆黒の鎖は壁の上に陣取っていた十数人を一瞬にして捕えると、凄まじい勢いで壁の上から引き離しミナトに眼前の地面へと縫い付けるかのように拘束したのだ。


 ミナトが使う闇魔法である悪夢の監獄ナイトメアジェイルによって生み出された漆黒の鎖。この鎖に拘束されるとスキルや魔法の行使を行うことができなくなる。しかし、


「むー!むー!」


 そのはずなのだがミナトの前にはそんな鎖にぐるぐる巻きにされているにも関わらず元気に抗議の意思を示す老婆が一人。


「えっと、もう一度言った方がいいですか?王都の冒険者ギルドで依頼を受けたF級冒険者パーティ『竜を饗する者』でリーダーを務めているミナトといいます」


 とりあえずとても礼儀正しい態度で臨むミナト。一瞬……、ほんの一瞬だけどこぞでボコボコにされた悪役キャラのように『ドゥー ユゥー アンダスタンンンンドゥ!』と凄む案も浮かんだが、そんなことをしたら魔王確定である。


「むむむむむ……、むむむむむむむっむむむ!」


「ちょっと何言っているのかよく分からない……」


「むー!」


 こんなところでこの台詞を使うことになるのかと思いつつ、ミナトはまだ自己紹介もされていないため星みの方々のリーダーであるマリアベルだと勝手に認定している老婆の口に巻いてある鎖を消滅させる。


「それでなんでしょう?」


「どの口が……、そんなことを言っておる!そう言ったのじゃー!」


 テンションは高い。元気なお婆さんだと思いつつとても冷静になっている自分に気付くミナト。どうやら【保有スキル】である泰然自若が仕事をしているようだ。


【保有スキル】泰然自若:

 落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。


「とりあえず落ち着いてくれません?私が魔王の尖兵であなた達の里を襲撃しに来たのならここにいる全員がもう命を落としていますって」


 そう言われてハッとした様子を見せる老婆。どうやら話が通じない状態は脱したと感じるミナト。しかし未だ名乗っていない老婆はぐるぐる巻きの状態で疑いの視線を送ってくる。


「そ、それはそうやもしれぬが……、この儂だけでなく里の者までも一瞬で拘束したこの闇魔法はもはや尖兵ではなく魔お……、むぐ……、む!む!」


 性懲りも無く同じ単語を発しようとしたので再び口を塞ぐミナト。いや……、漆黒の鎖が自発的に動いたような気がしないでもないミナトである。


『なんか影響力がありそう……。この人達ってルガリア王国の建国に携わったんだよね……。この人達にそう呼ばれると世界からそう認定されてしまうような気が……』


 そんなイヤな予感がしたのだ。


「なんかイヤな感じがするのでその呼称で呼ばないでもらえます?お約束してくれたら外しますけど?」


 笑顔でそう提案するミナトの全身から魔力が漏れ出す。かつての魔王でも小指の先だけで倒せるほどの力とシャーロットが評した闇魔法 Lv.MAXは伊達ではない。滲み出す魔力には圧倒的な迫力があって……。


 こくこくこくこく。


 老婆は必死の形相でミナトの提案を受け入れるのであった。


 そうしてここにいる全員といろいろときちんと確認してから拘束を解除する。


「もう一度最初からですね。王都の冒険者ギルドで依頼を受けたF級冒険者パーティ『竜を饗する者』でリーダーを務めているミナトといいます」


 老婆とその背後に先程まで攻撃を放ってきていた里の面々を前に三度目の自己紹介をするミナト。


「う、うむ。よくぞ参ったミナト殿……。儂はここ……、お主たちが星みの方々のと呼ぶ儂らの里を束ねるマリアベルという者じゃ」


「やはりあなたがマリアベルさんだったんですね」


 そう言ってミナトはほっとする。やっとスタートラインに立った感じだ。依頼の詳細な確認と王都への移動について話そうとしたところ、


「どうやら上手くいったみたいね?」

「さすがはマスターです〜。見事な魔法でした〜」

「素晴らしい魔法を見せて頂きました」

『カッコよかったデス〜』


 ミナトの背後に四つの気配が現れそう声をかけてくる。当然、彼女たちのことも紹介しなければと考えるミナトだが、


「マリアベルさん?……あ!」


 固まってしまったマリアベルを見てミナトは可能性について思い出す。


 シャーロットによると星みの方々はかつて天から降る星を詠う一族スター・シーカーと呼ばれ二千年前の大戦に人族と亜人の連合にとして参加していた。そしてリーダーのマリアベルは二千年前から同一人物である可能性がある……。もしそうであればマリアベルは二千年前のシャーロットよく知っているはずで……。


「そ、そんな……」


 わなわなと震え始めるマリアベル。


「は、破滅じゃ!破滅がやってきおった……」


 そこまで呟いて意識を失うマリアベル。


「ふん……。流石の私もこの時代に老婆の姿をした者は吹っ飛ばす訳にはいかなかったわ」


 やや不満げにそう口にするシャーロット。マリアベルに心の中で手を合わせたミナトは少しむくれたシャーロットも綺麗だと考えるのであった。

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