第634話 ようやくの到着

 思わぬ再会によるあまりの衝撃に気絶したマリアベルだがシャーロットの魔法で瞬時に意識を回復させられた。


「あなたにこんなところで会えるなんてね……。正直に言って私も半信半疑だったのよ?」


 そんなことを言うシャーロットの前で、


「なぜシャーロット様がここに……」


 そう呟くマリアベルの表情は見事といえるほど恐怖の色に染まっている。彼女の背後に控える星みの方々の面々は状況が飲み込めておらずどうしたものかと顔を見合わせ困惑気味だ。


「『なぜ私がここにいるか?』という質問の回答なら、それは私があなた達を護衛する依頼を受けたF級冒険者パーティ『竜を饗する者』のメンバーだからかしら?」


 少し考える様子を見せつつそう答える美人のエルフ。その答えに驚愕の表情となるマリアベル。


「なぜそんなことに……?」


 今度はそう呟くマリアベルに、


「今度のなぜ?は『なぜ私が冒険者を、それもF級冒険者パーティに所属しているのか?』という質問なら話が長くなるわ。ま、簡単に答えるなら『ミナトと一緒にいたいから』かしら?」


 そう言って隣にいるミナトの右腕に自身の腕を絡めるようにして抱きつく美人のエルフ。


 マリアベルの表情が驚愕から絶叫に変わっている気がするミナト。


『たしかデボラたちも最初に会った時にそれを聞いて驚いていたっけ……』


 などと呑気に過去のエピソードを思い出している。


「シャーロット様……、差し支えなければミナト殿とシャーロット様のご関係について……」


 ここまでおそるおそるという言葉が似合う問いかけ方もないだろうという様子でマリアベルがシャーロットに質問する。


「私のパートナーよ。私が第一夫人ね」

わたくしが第四夫人のナタリアですね〜」

「私が一人目の愛人であるオリヴィアです」

「二人目の愛人のピエールデス〜」


 なぜかいきなりシャーロットに追随してナタリア、オリヴィア、ピエールが言葉を被せてきた。ミナトの気分を害したことに思うところがあるのかオリヴィアの態度が少し固い。あとできればピエールには幼児モードは避けてほしかったと思うミナトであるが、


『遅かった……』


 そう心の中で呟くミナト。


 ミナトの視線の先にあるのは二種類。一つ目はおそらく彼女たちの正体をおぼろげながらにも理解し最早どんな表情をしてよいか分からなくなっているマリアベル。そして二つ目は幼女モードのピエールを愛人にしていると聞いて生ゴミを見るときの視線を投げかける星みの方々の面々である。


「その辺りも話すと長いわ!ところで私たちのことを話す前に確かめておきたいのだけどあなたのことはこの里の者達は理解しているのかしら?」


 シャーロットがそう問いかける。


「はい……。この里は儂の末裔が暮らしており、儂のことも理解させています。平和にはなりましたが一族の技に関しても一応は継承させておりますでな……」


 疲労困憊といった様子でそう答えを返すマリアベル。


「ならいろいろと話しても大丈夫そうね。とりあえず依頼のこともあるし中に入れてちょうだい。そしてゆっくりお話ししましょう?」


 そう、ここで忘れてはいけないことが一つ。ここは大きな扉が付いている木製の壁の前、まだミナトたちは星みの方々の里に入ってすらいないのだ。


「『オハナシ』など縁起でもないことを言わないでくだされ……、はぁ……、まさかこの里にシャーロット様がやってくるとは……、どうぞ、こちらですじゃ……」


 マリアベルが手を振るとゆっくりと門が開き始める。里の者達は不思議そうな表情を浮かべているがどうやらマリアベルの指示には従うらしい。


 そうしてようやくミナトたちF級冒険者パーティ『竜を饗する者』は星みの方々の里へと到着するのであった。

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