第631話 木製の高い壁を前にして
高い木製を前にして一人佇むミナト。壁の向こうでは
さっきまで静かであったことを考えるとこの
『あ、どうしよ……』
ミナトは心の中でそう呟く。索敵能力で壁の向こうを探ってみると、早くも武装した者達が門へと集まってきている。どうやらその大半が魔法を使えるらしい。
「やっぱり特殊な方々の里ってことなのかもね」
そう呟く。この世界において魔法は貴重な才能とされている。ファーマーさんがしっかりと指導すればその常識も崩れるらしいが、ここにファーマーさんはいない。星
「さてと……」
このままでは何も解決しない。ミナトは気を取り直して状況を整理する。とりあえず直面している問題はというと、
「これって敵意だよね……、誰と間違っているのか知らないけど敵意がスゴい……」
壁の向こうに集まっている者達から差し違えてでも里を守り抜くという意志を感じる。まあ……、誰と間違っているかの予想はつくのだが……。
「!?」
そこでミナトは目を見開き壁の向こう側を見据えるように視線を送る。壁のさらに奥の方で大きな反応を感知したのだ。種族は人族のようだが判然としない。そして驚くべきは魔力量。ミナトやシャーロット、デボラたちには比べれるべくもないが人族としては余りにも大きな魔力を持っている。その立ち居振る舞いや周囲の動きを感知するとどうやら里の長のようだ。
『カレンさんによると確かリーダーの名前はマリアベル……、その人かな?二千年前には
そんなことを考えていると壁の向こうで動きがあった。気配を探るとどうやらリーダーと思しき人物が周囲の反対を押し切る形でこちらにやってくるらしい。
『穏便にお話をさせて頂けるかな……。物理的なオハナシアイはよろしくない』
そう思いつつ数分後、
「そなた!いったい何者じゃ!何が目的でこの里を襲う?」
頭上から声がかけられた。既に急襲したことになっていることには反論したいと思いつつ見上げるミナトの視線の先にはこちらを見下ろす老婆が立っていた。彼女の両サイドには護衛が二人。
「えっと……、王都の冒険者ギルドで依頼を受けた冒険者です!王都で開催される夏祭りの件で王都へ行かれる星
正直に言ってみるミナト。この台詞に嘘が一切ないことは間違いないのだ。
「ふん、やはりこの一年の……、あの不気味な星々の騒めきは魔王の復活の予兆であったか……」
老婆がブツブツとイヤなことを口走る。ミナトの言葉は耳に届いていないのか、嘘だと断定しているのか……。
「いや……、あの……、魔王は完全に消滅したって……」
そう声をかけるミナトを完全に無視して、
「その闇の魔力、この儂に魔力を隠しても無駄じゃ!魔王の尖兵よ!確かにこの里は二千年前お前たちの主である魔王を倒した者達の末裔が暮らす里!だが永き時が流れた!もはや当時を知る者などおらん!早々に立ち去るのであればこちらも追わぬ!」
「いや……、魔王の尖兵じゃないので……」
そう返すが、何か思い詰めたかのように目を閉じている老婆は聞く耳を持ってくれそうにない。
「そうか……、あくまでこの里を滅ぼすと言うのであれば、我等は闘う!我が一族の誇りにかけて!」
「話を聞いて!」
「皆の者!」
ミナトの言葉に耳を貸さない老婆の指示で壁の上に多数の人影が並ぶ。全員が一斉にミナトに向けて攻撃系の魔法を放とうとする。
「どうしてこうなるかな!?」
そう呟くミナトの足元から漆黒の鎖が発現するのであった。
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