第630話 開けた視界のその先では……

「なるほど〜、材質は羊皮紙のようですが手触りが少し違います〜、これは魔道具の端末のようなものかもしれませんね〜」


 魔道具と聞いたナタリアが手にした地図を繁々と眺めながらそんなことを言ってくる。


 ナタリアたちアースドラゴンは魔力を持たないが魔道具の職人という一面を持つ。アースドラゴンの里がある『地のダンジョン』の最下層ではその技術でウイスキーの生産が行われていたりもする。


「特定の人物が手にしているときだけ機能するってことかしら?そしてその人物を地図に記録されている場所へと連れて行く?」


「そういうことだと思います〜」


 シャーロットの問いにナタリアが答える。


「特定の人物ってこの状況だとおれってこと?」


 ミナトの言葉を全員が頷いて肯定する。


「うーん、いつの間に……?」


 首を傾げながらナタリアから地図を受け取る。すると地図から魔力が漏れ出しとても弱い力だが引っ張られるような感覚を覚えるミナト。


「魔力を感知したタイミングではないわね。こんな目的地の近くでは意味がないわ。あの連中が襲ってくるより前でしょ」


「冒険者ギルドでカレン殿から受け取った巻かれた状態の地図を最初に広げたのはマスターですね」


 シャーロットの言葉にオリヴィアがそう返す。


「そんなところでしょうね。ミナト、取り敢えず地図の行きたい方向に行きましょう」


「大丈夫だよね?」


 そんなことを返すミナトにシャーロットは笑顔を向ける。


「地図を奪われたときの対策なんでしょ。ギルドから依頼された者以外だと地図が反応せずに地図に書いてある偽りの目的地着いてしまうってやつね。ピエールちゃんだって何も感じていないようだし問題ないわ」


 現在は漆黒の外套マントモードでミナトの装備になっているピエールはこの状態のときミナトに向けられる悪意や敵意に反応し絶対的な防壁として機能する。そのピエールがミナトに地図を持たせているということは少なくともこの地図はミナトを害さないとピエールが判断したということなのだ。


「お約束的な感じだと地図を奪って記されている場所に行ったら強力な魔物の巣だったとかって感じ……?」


「またミナトの世界にあった創作物の話かしら?本当にあなたのいた世界って想像力が豊かよね?」


 そんなことを話しながら地図にいざなわれる形で歩みを進めることにしたミナトたち。


 しばらく歩くと地図は森の奥深くへミナトたちを案内する。背の高い樹々や鬱蒼と生い茂る草花がその行手を遮るかと思われたが……、ミナトが一歩踏み出すと樹々や草花の隙間に人ひとりが通れるくらいの道が現れた。


「そういうこと!?」


 驚くミナトに、


「なるほど……、面白い魔法ね……」


 シャーロットもそう呟く。ただ好戦的な笑みを浮かべているのがちょっと怖い。


 細い一本道をミナト、オリヴィア、ナタリア、シャーロットの順で進む。並び順に特に意味はない。どの方向からどのような攻撃があっても基本的に無意味だ。


 そうして地図のいうことを大人しく聞きながら歩くことしばし……、ついに視界が開ける。そこには木製の高い壁と閉ざされた門があった。


「おお!ここが星みの方々の里……、の入り口?」


 そんな言葉が漏れるミナト。門の奥に複数人の気配を感じる。取り敢えず来訪の理由をそう伝えようかと考えるが……。


 カンカンカンカンカンカン……。


 突然鳴り響く鐘の音、いわゆる早鐘はやがねというやつである。


「あれ……?もしかして……?」


 イヤな予感がしたミナト。周囲を確認すると……、なぜかたった一人で門の前に立っているのであった。

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