第629話 新しい朝と目的地への地図
「うーん……、早朝でまだ涼しいからか……、なんかとても清々しい気分……」
テントの隙間から注ぐ朝日に導かれるようにテントから出てきたミナトが樹々の隙間から覗く青空を見上げてそう呟く。
疲労困憊であった昨日の朝とは比べ物にならないほど体が軽い。
すると唐突に脳内でとある音楽が流れ始める。久しく思い出さなかった懐かしい音楽だ。まずは歌のパートから始まる。夏、早朝、という条件が揃ったのだ。日本人であったミナトの取る行動といえばあの体操しかないわけで……、
「腕を前から上に上げて〜……」
そうして深呼吸まで流れるように体操を実行するミナト。やはり身体は覚えているものである。しかしまだ音楽は止まらない……。
「両足跳びで全身を……」
聞いた話では第三もあるという話だがミナトが知っているのは第一と第二まで。そうして朝の体操を終了する。
「ミナト?それは何かの儀式なのかしら……?」
振り返ると寝起きであっても圧倒的な美貌を湛えるエルフとアースドラゴンとフェンリルとエンシェントスライムが人の姿で首を傾げつつこちらを見ている。
ミナトはふと考える。命が実に軽いこの世界では趣味・娯楽や健康維持のためのスポーツや体操といった概念が薄い。身体を動かすのは労働か戦闘かその訓練のためといった印象である。フットボールというかサッカーくらいはあってもいいと思うのだが考えてみるとそういったスポーツができる場所を見たことがないミナトであった。
「えっと、これはね……」
ミナトはこの体操と呼ばれる動作が健康維持のために役立つ可能性があるものだという説明を試みるのであった。
このことがミオに伝わり、ミオからティーニュや第一王女のマリアンヌへと伝わって各所に広がることになるのだがそれはミナトの知らないお話である。
そんな一幕の後、王都で仕入れミナトの
しばらく歩みを進め目的地に随分と近づいた辺りで……、
「え?」
突然ミナトが立ち止まった。
「ミナト?」
シャーロットが振り返るとミナトが地図を見つめて固まっている。
「……この地図、僅かだけど間違いない。この地図から魔力を感じる……?」
ミナトは手に持った地図から微量の魔力が出ていることに気づく。
「確かに魔力の反応あるわね……。さっきまではこんなことなかったのに……。でもかなり小さい反応だわ。ミナトや私たちだから気付けるけど、これくらいだとどれかの属性でレベル4はないと無理なんじゃないかしら?」
シャーロットがそう言ってくる。それは普通の人族や亜人では感知することができなということだ。
「あらあら〜?
魔力を持たないアースドラゴンであるナタリアは地図からの魔力を感知できないらしい。
「私は微量の魔力を感じます」
「ワタシも感じマス〜。悪い感じはしまセンケド〜」
オリヴィアとピエールは感じるらしい。ピエールによると持つ者に悪影響を与えるものではないようだが……。
「ミナト、ちょっといいかしら?」
シャーロットが差し出した手に地図を渡すと、
「あれ?反応が消えたわ……、どういうこと?」
首を傾げるシャーロット。その様子もとても美しいが今は地図のことである。再びミナトが手に持つと……、
「地図が魔力を発し始めた……。なんだこれ……、いや違う、なんだこの感覚……?少しだけ引っ張られる……?」
ふらりと一歩、二歩と足を踏み出すミナト。三歩、四歩と歩いたところで何かに気付いたらしく手にある地図をガン見する。
「ミナト?」
「大丈夫ですか〜」
「マスター?」
ふよふよ。
シャーロットたちがミナトの周りに集まる。ちょっと心配そうな彼女たちにミナトは地図から顔を上げる。その表情は笑顔、
「なんか分かった気がするよ。この地図は魔道具の
そう地図のことを理解するミナトであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます