第628話 平和な四日目?

「は、はは……、なんていい天気なんだ……、陽の光がこんなに重たいなんて知ラナカッタヨ……」


 そう呟きながら地図を片手にヨロヨロと歩みを進めるミナト。昨日の襲撃現場に程近い魔法陣を設置した場所から四日目の出発である。


 これまでにも時たま見られる姿だが、今日も今日とて疲労の色がとても濃いミナト。痩けた頬にふらつく腰、太陽光でよろめくその様子は正しくへろへろであった。


 ちょくちょく城へと帰還しているためあまり実感はなかったりもするのだが、冒険者ギルドの説明と手元の地図が正しければ星みの方々……、シャーロットが言うところの天から降る星を詠う一族スター・シーカーさんたちが暮らす里まであと一日かかる予定である。


「うーん、いい天気だわ。暑いけど森の中って気分がいいのよね!」


 朝の木漏れ日を浴びながら気持ちよさそうにしているにはシャーロットである。その白い肌と風に靡く金髪は驚くほどに艶やかで輝く笑顔は充実感に溢れていた。


「目的地まであと一日です〜。楽しみましょう〜」


 元気に歩みを進めるナタリアのきめ細かくしっとりとした肌も妖艶な唇もいつも以上にツヤツヤのぷるぷるである。気のせいかその圧倒的な双丘もいつも以上に張りがすごい感じがする。


「これは冒険です。最後まで気を引き締めて行きましょう」


 落ち着き払ってそう言うオリヴィアだが自慢の銀髪は驚くほどに艶やかで夏の陽光に輝いている。何をどう手入れすればそんな髪質になるのやら……。


『周囲の見回り完了デス〜。特に脅威はアリマセン〜。昨日のミタイナ連中もいませんデシタ〜』


 そう念話を発しながらふよんふよんと跳ねてきてミナトの肩に乗る虹色の球体。ソフトボールサイズのピエールである。シャーロットによる『高く売れる魔物を相手にするとかどこかの教会やら連合やらに縋る残党を滅ぼすならまだしもあんなザコいクズどもにミナトとの楽しい旅を邪魔されるなんて時間の無駄よ』との言葉のため、ピエールとその分裂体による周囲のザコ一掃作戦が行われていた。


 そんなピエールもよく見ればツヤツヤのぴかぴかであったりする。


「はは……、みんな元気そうで……、何より……」


 ふらふらした足取り今にも崩れ落ちそうである。


『お城に戻ったらデボラたち全員がお風呂にいたからしょうがないとは思うけど……』

『あらあら〜?皆さんのせいにしてはいけません〜。シャーロット様〜?マスターにムリをさせすぎですよ〜?特に最後のはやりすぎです〜』

『ナタリア?その言葉……、昨日の貴方にだけは言われたくないわ……。あんなに激しくしたらああなっちゃうことくらいわかるでしょ?』

『うふふ、とても幸せでした〜』

『これだからアースドラゴンは……。武闘派なのは戦闘だけにしてほしいわ!』

『それをシャーロットが言うのは間違っていると思います〜。ベッドの上でも破滅を……』

『滅びたいのかしら!?』

『お二人とも……、そのくらいで……』

『銀のケモ耳としっぽにしなやかかつ妖艶な四つん這いで誘惑する狼は黙っていなさい!』

『マスター、優しかったデスヨ?』

『ピエールちゃん……、あなたはやっぱり反則だとお姉さんは思うのだけど……』


 そんな念話の応酬が繰り広げられていることなど感じることができないほどに消耗したミナトを連れた一行はなんとか無事に四日目の行程を終えることができた。


 そうして夜になり……、


「みんな……、今日はゴメン……、オヤスミナサイ……」


 今日こそは野営ということになり、息も絶え絶えにして吸い込まれるように一人用のテントへと消えてゆくミナト。


 今日ばかりは自重しよう、その意思を持って互いに視線を交わした美女たちはゆっくりと食後のウイスキーを楽しむことにするのだった。

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