第627話 明日に向けて休息を

「ピエールが一瞬で倒したけど……、作り物デコイの魔法って流行っているのか?」


 そう漏らすミナトは外套マント形態から本来の虹色球体へと戻りしきりに『褒めて!褒めて!』と揺れているピエールを身を屈めて撫でている。ひんやりつるつるのその手触りが心地よい。


「地図が狙い?そしてシャーロットたちも狙った?それにしてもグズだった。そして星みの方々が暮らす里への地図を欲しがっている者がいるってことは分かったけど……」


 相手の狙いもよく分からない。まだ情報が少なすぎると思うミナト。


「どこのかは分からないけど貴族じゃないかしら?監視役は作り物デコイ使いだったじゃない?作り物デコイはその弱点を知らない連中の目には使い勝手がよく映るのよね。貴族連中の中には使い手を雇っている者がいるはずよ?」


 呆れたように肩をすくめてそう言うのはシャーロット。そんな様子も絵になるほどに美しい。


「魔法を得意とする人族や亜人の方々が少なくなりましたからね〜。禁忌の理由が失われたか〜、う〜ん、どこかの貴族に失わさせられたか〜」


 少し物騒な推理を披露するナタリア。その全身から醸し出される艶やかさはどうにかできないものなのだろうか。


作り物デコイはその器に自身の魂を込めます。あの状態の魂は私の爪が何も施していない状態でも切り裂くのは容易い……。かなり問題のある魔法かと思います」


 オリヴィアがそう付け加える。執事服を思わせるパンツスタイルの装いで凛々しさ二割増しといったところだがこれで美人の女性は反則だ。


「ふよふよ……」


 念話ではない声が聞こえてくる。気付くと撫でていた虹色の球体がとても可愛らしい幼女に変わっていた。撫でられてとても気持ちよさそうにしているがミナトにあらぬ疑いがかかりそうな光景となっている。


 自分が置かれている状況をよくよく考えてみるミナト。


『あー、監視役を振り切って襲ってくる気持ちがちょっとだけ理解できるかも……』


 流石に声に出すのはやめておくミナト。すると、


「ミナト!あんな連中と遭遇した森で野営なんてしたくないわ!お城に戻らない?お風呂にも入りたいし!」


 とびっきりの笑顔でそんな提案をしてくる超絶美貌のエルフ。


「いいけど……」


 ミナトには転移テレポの魔法がある。簡単にミナトの城へと帰還できるが、


「こう帰る頻度が多いとなんか……、こう……、冒険している感というか……、冒険者の矜持というか……」


「ミナト!本職はバーテンダーでしょ?気にしない気にしない!今夜は明日に向けて休息よ!」

「準備運動にもならない戦闘でしたが〜、あの方々の汚らわしい気配をお風呂で洗い流すことには賛成します〜」

「とうぜん!私もご一緒します!」

「マスターもいっしょデス〜?」


 楽しそうに会話している女性陣だが、


『なんだろう……、この何かに狙われれているような感覚は……』


 ミナトの索敵能力が強大な力を感知して警告を送ってくるのであった。

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