第624話 取り囲まれるけど……

 そうして取り囲まれるミナトたち。


 この連中の存在はミナトたちの索敵能力にしっかり引っかかってはいたのだが襲ってくるとしたら深夜だと考えていたミナト。


『こんなに堂々と登場するなんて……』

『私たちのことを知らないってことかしら?』


 ミナト心の呟きが念話となって漏れたのかシャーロットがそう答えてくる。


 現在、王都を拠点として活動する冒険者にミナトたちのことを知らない者などいない。『絶対にちょっかいを出してはいけないF級冒険者がいる』というのは王都に冒険者の共通認識である。


『う〜ん。この者共は冒険者でしょうか〜?何やら王都の冒険者さんとは雰囲気が異なりますね〜』


 ナタリアがそう言ってきた。


『王都じゃないところから来た冒険者か……、ま、とりあえず……』


「おれがなんとかする!だから早く逃げるんだ!」


 そう大きな声で言ってみるミナト。その言葉を聞いた男達がニタリと笑う。どうやらミナトがシャーロットたちを逃がそうとしていると思ったらしい。


「ムリムリ!F級なんつー無能な冒険者共に逃げられるよーなマネを俺様達がするとでも思っているのか?」


 そうして男達が武器を構える。


『いや……、そうじゃなくて……』


「何をしている!はやく逃げるんだ!」


 そうしてシーンは冒頭へと戻る。


「だから逃さねーって言ってるだろう?あん?」


 ミナトの慈悲に全く気付くことなくリーダーらしい男がそう言ってくる。


「俺様と仲間の女共に感謝しろよ?遠距離から皆殺しでもよかったんだ。依頼人はお前達の全滅とある物の入手がご希望らしいが、まあ、細かいところはどうにでもなるもんだ。さあ、交渉といこうじゃないか?」


「交渉?」


 とりあえず聞き返してみるミナト。今にも腰のマジックバッグから大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎるアレを引き抜いて突撃しそうなナタリアを宥めているミナトである。


「そうだ!お前達の持っている冒険者ギルドから貸し出された地図をよこせば命だけは助けてやる」


「地図?」


「あー、とぼけるのはオススメしない。お前達F級冒険者パーティがギルドから……、なんつった……、星ナントカの里へ行く依頼を受けたことは分かっている。俺様の依頼主はその地図が欲しいんだとよ」


「これ?」


 素直に地図を取り出すミナト。どうやらカレンさんから渡されたこの地図には価値があるらしい。


『星みの方々が暮らす里への地図って価値があるのかな?でもおれ達が依頼を受けたことって誰か知っているっけ?』


『私たちの依頼主……、かしらね?』


 シャーロットの念話にミナトは理解する。今回の依頼は『ルガリア王国に星みの方々など必要ないと考える不届き者を炙り出す』という意図がある。どうやらさっそくその末端が炙り出されたらしい。


『これも依頼の範囲内……。まあ米と醤油を王都に持ってきてもらうことを考えるとおれとしては何の問題もないかな?』


『ミナトが大丈夫ならこれくらいのこと私たちも気にしないわよ?でもこの連中は消して構わないかしら?』

『シャーロット様が何かなさる必要はありません〜。わたくしに斬らせて頂けますか〜?』

『ご命令とあらば私の爪で四枚におろして差し上げますが?』

『溶かしマス〜?』


 そんな物騒な念話のやり取りをしていたのだがそんなミナト達を男達は恐怖に押し黙ったと認識したらしい。


「そう怖がるなって!言ったろ?地図をよこせば命だけは助けるって!」


「命だけ……?」


 先ほどから命だけ……、命の部分を強調しているようで、その真意を知るためそう問い返してみるミナト。


「ああ!簡単なことさ。お前は俺様達にボコられる。殺しはしない。そうしてボロボロになったお前の目の前でその女達と楽しませてもらう。大丈夫!女の方も殺しはしない。自殺はするかもしれんが……、そういうことだから死にたくはないだろう?」


「思った以上にクズだった……」


 恐怖など微塵も感じていない声色でそう言い放つミナト。その表情にはいろいろと諦めた様子が伺える。彼女たちから『ぷちぃ』という音をミナトは確かに聞いたような気がした。


「テメェ!死にてぇらしいな?どのみち女は頂くから俺様としては……」

「逃げろって言ったのに……」

「参ります〜」

「ゴミ共に死を!」


 リーダーらしい男とミナトの言葉を遮ってナタリアとオリヴィアが飛び出した。ナタリアの手にはアノ巨大すぎる鉄塊……、もとい大剣が握られている。そしてオリヴィアの爪が夜の闇に怪しく輝く。


「ピエールちゃん!分裂体を!何も残す必要はないわ」


「了解デス〜」


 誰に雇われたのかは分からないが冒険者なのか傭兵なのか騎士も混じっているのか……、よく分からない構成の野盗っぽい連中の末路が決定した瞬間であった。

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