第612話 依頼内容の詳細を

「そういった経緯がございまして……、ここルガリア王国の第一王女であるマリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリア様の王位継承権の放棄、そしてそれと同時に神聖帝国ミュロンドの元第三王子であるジョーナス=イグリシアス=ミュロンド様との婚約をこの夏祭りの場で発表することになったのです」


明るい笑顔でカレンさんはそう言ってくるが、


「それっておれ達に話していい内容なのかな?」


驚く表情など一切見せずに落ち着き払ってそう問いかけるミナト。どうやら【保有スキル】である泰然自若が発動しているらしい。お風呂場でフィンの部下たちがうっかり元の姿に戻っても狼狽えることすらさせないこのスキルは今日もミナトの心を支えているようだ。


「はい。依頼主の皆様からは全て包み隠さずお伝えするように厳命されております」


右手を胸に当てつつ堂々と答えるカレンさん。


『実力を理解していればシャーロットたちを嘘で釣ろうとは思わないか……。でも依頼者の嘘は許さないって……、まるでどこかのスナイパー……』


そんな胸中の感想が念話で漏れたのか、


『ミナト!違うわよ!彼らが怖いのはあなた。あなたから怒りや不信を買いたくないのよ』


シャーロットが念話でそう伝えてくる。


『おれ?』


表情には出さずに聞き返すミナトだが、


『そうに決まっているでしょ?私もだけどデボラもミオもナタリアも……、オリビアもピエールちゃんもロビンもフィンも……、まあピエールちゃんは知られていないと思うけど、王家や二大公爵家は私たちの力を知っている。そして私たちはミナトを慕っているのは周知の事実ってやつね。ミナトが私たちに望めば……、まあ、本気でそんなことを言い出したら止めるけど、王都を更地にするのも簡単よ?』


シャーロットも視線をカレンさんに向けたままそう返してくる。


『おれはそんなことを言わない……』


そう念話を放とうとするが、


『確かに……、吾輩も魔物を召喚できますからな……』

『ご命令とあらば……、我が騎士団をもって……』


背後から届く厳かな雰囲気を纏った騎士の念話。


『物騒な相槌を打たないでくれるかな!?』


言われてみると否定できない部分が多くて心の中でガックリと膝をつくミナトである。


そんなミナトの胸中を知ってか知らずか、


「そこでですね。護衛依頼へと繋がるのですが……」


カレンさんが話を続ける。


「護衛依頼っていってもその二人なら公爵家も親戚なわけだし王家と公爵家から護衛騎士が山ほど……?」


そこまで言ってミナトは口を閉ざす。うっすらと笑みを浮かべるカレンさんの眼はその言葉を否定していた。


「別な護衛対象がいると?」


思わずそう問いかけるミナト。


「はい。ミナトさんたちパーティ『竜を饗する者』には星みの方々の護衛をお願いしたいのです」


「星み?」


聞いたことがない言葉におうむ返しに聞き返すミナト。


「もしかして天から降る星を詠う一族スター・シーカーのことかしら?まだ力を継承しているの?」


「シャーロット?」


どうやらシャーロットの知っている言葉であったらしい。シャーロットの反応に驚いた表情を浮かべるカレンさん。


どうやらファンタジーな展開らしい。ミナトはその依頼に俄然興味をそそられるのであった。

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