第611話 カレンさんから話を聞こう

 冒険者ギルドの個室で受付嬢のカレンさんから伝えられたのはルガリア王家と二大公爵家の連名による依頼だった。


 とりあえずこの依頼は受ける前提のミナトはカレンさんに依頼内容の詳細をお願いする。


「はい。ご説明させて頂きますが、まず先にお伝えしなければならないことがございます」


 そう言ってくるカレンさん。


『なんの話かな?』


 と考えつつカレンさんには、


「お伺いしますが……、おれ達が聞いて大丈夫内容ですか?」


 とりあえずそう答えてみるミナト。ルガリア王家と二大公爵家が絡む依頼なのだから、おそらくその辺りに関係する内容であることは察しがついているミナトである。


 ミナトのそんな心境をきっちりと把握していると思われるカレンさんは、


「問題ございません」


 その笑顔をいっさい崩すことなくそう返して言葉を続ける。


「まだ内々のお話なのですが第一王女であるマリアンヌ様は王位継承権を放棄して新たに公爵家を興すことになるそうです。そして公爵家を興した後、現在は神聖帝国ミュロンドから家名と皇位を剥奪されルガリア王家預かりとなっている元第三王子のジョーナス様を婿に迎えるご予定だとか……」


 カレンさんの唐突な王家の裏話に、


「うん?」

「ふふ……。そういうことにしたのね……。王位より好きな相手を選ぶなんてやるじゃない」


 ミナトは驚き、シャーロットは笑顔になる。背後に佇むロビンとフィンも無言ながら感心したような表情を浮かべていた。


 ルガリア王国の国王マティアス=レメディオス=フォン=ルガリアと王妃アネット=セレスティーヌ=フォン=ルガリアの間には三人の子供がいる。第一王女様がマリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリア。第二王女様がアナベル=ブランディーヌ=フォン=ルガリア。第一王子様がジェラール=オクタヴィアン=フォン=ルガリアだ。マリアンヌは今年一八歳。アナベルが十二歳でジェラール様が九歳となる。


 ルガリア王国では女性も王家や貴族家を継承することは可能なのだが、第一王女のマリアンヌはその継承権を放棄すらしい。


 ここにいる者達は全員がマリアンヌとジョーナスのことは知っている。


 ミナトはここ数ヶ月を思い出す。


 ジョーナスがルガリア王国の王都へと到着した後、国王であるマティアス=レメディオス=フォン=ルガリアの動きは迅速を極めた。


 即座にバウマン辺境伯を全権大使とする使節団を組織し、神聖帝国ミュロンドへと派遣したのである。クラレンツ山脈の街道はミナトの瘴気によって通行が不可能になっているため北から迂回するルートを使ったのだが、使節団は信じられない速度で神聖帝国ミュロンドの帝都グロスアークに到着。


 バウマン辺境伯の具体的な行動は明らかになってはいないがその結果、『帝国に帰国した第三王子であるジョーナス=イグリシアス=ミュロンドは皇帝の命により家名と皇位を剥奪されて国外に追放された』というが神聖帝国から各国へと伝わることとなった。


 この件にはミナトもちょっとだけ関与している。話の中でジョーナス王子は『クラレンツ山脈の瘴気が一時的に消失した際にルガリア王国から神聖帝国へ帰還を果たした』ことになっているらしい。そのお話に説得力を持たせるためミナトはクラレンツ山脈に赴き数日にわたって瘴気を消してきたのであった。まあ当然の如くこの間ジョーナス王子は王都から一歩も動いていないということである……。


 ちなみにこの瘴気はクラレンツ山脈に生息する人族や亜人には手に負えない強力な魔物のみをルガリア王国側に降りて来なくしている。そのため安全に稼げる冒険者や魔物の脅威に怯えずに済む狩人、脅威が減った農業従事者たちはこの瘴気を『恵みの瘴気』と呼んでいるとかいないとか……。


 そうまでしてルガリア王家は神聖帝国ミュロンドの第三王子であるジョーナスを帝国から切り離したかった。


 その理由こそがカレンさんが話したマリアンヌとジョーナスの婚姻なのだと理解するミナトだった。


『それが夏祭りの護衛依頼とどういった関係があるのかな?』


 心の中で首を傾げつつカレンさんの言葉に耳を傾けるミナトであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る