第610話 冒険者ギルドの二階へ

「ようこそミナトさん。シャーロットさん、ロビンさん、フィンさんもお越し頂きありがとうございます。ピエールちゃんもお元気そうですね」


 ヨレヨレであるはずのミナトの様子を気にするそぶりも見せず、先の言葉と共に現れたのは受付嬢のカレンさん。Barの常連であるカレンさんは時折カウンターでマスコット状態になっているピエールをよく知っている。本日は青色スライムモードでミナトの肩にいるピエールを撫でて笑顔である。


 そんなカレンさんに案内されてミナトたちは個室のドアがいくつも並んでいる冒険者ギルドの二階へと移動する。


 これらの個室は上級冒険者が指名依頼などを受ける際に打ち合わせの場として使用されていた。


 指名依頼は上級の冒険者が対象となる依頼方法で、依頼主が冒険者やパーティを名指しで指名する形で行われる依頼である。旅の護衛といった依頼主との信頼関係が重要な依頼で使われることが多く、依頼金額も通常より高くなることが多い。


 ちなみに冒険者の階級はS級からF級までの七つの階級に分かれており、それぞれ冒険者証となるプレートの色で区別される。


 S級冒険者:白金プラチナ、人外の存在…この世界にほんの僅か


 A級冒険者:金、超一流…この国にほんの僅か


(以上の冒険者は滅多に遭遇することが出来ない)


 B級冒険者:銀、一流…この国に数人


 C級冒険者:銅、上級…この国に数十人


 D級冒険者:鉄、普通…この国に数百人


 E級冒険者:青、見習い…多すぎて計測不能


 F級冒険者:赤、初心者…多すぎて計測不能


 そのため指名依頼を受けることができるのはC級以上の冒険者ということになる。ミナトとシャーロットたちは全員F級の冒険者であり、本来であれば指名依頼とは無縁である。


 カレンさんに促されてミナトたちは個室の一つへと案内されるとそこにはテーブルを挟んで大きなソファが二つ。ミナトとシャーロットがソファに腰を下ろし、ロビンとフィンが二人の護衛騎士のように背後へと立つ。無表情の二人だが……、


『ふっふっふ。マスターとシャーロット様の護衛騎士の役を担うとは正に騎士の誉!うふ……、うふふ……』

『やはり護衛騎士の任こそ騎士の本懐。よい……、やはりこれがよい……』


 歓喜の感情と共にそんな念話が伝わってくる。二人はアンデッドだがその本質はやはり騎士であるらしい。ピエールを肩に乗せたミナトとその傍にシャーロットがいる状態で何かできる襲撃者などまず存在しないが、それでも二人を護る立ち位置にいるのが嬉しいようである。


「本日はギルドまでお越し頂きまことにありがとうございます」


 そんな盤石な布陣のミナトたちとテーブルを挟んで反対側に座るカレンさんがそう言って頭を下げる。


「連絡を頂きましたからね。先週Barで話されていた依頼の件ですか?」


「はい。冒険者ギルドに指名依頼が届きました。ミナトさんたちパーティ『竜を饗する者』を指名した依頼です」


 カレンさんの言葉に頷いてみせるミナト。カレンさんはミナトのBarの常連さんであり、日頃から冒険者ギルドに関連することではお世話になっている人物だ。そのため今回の依頼を受けることは昨日の色々あったお風呂の中でもしっかり全員と確認してある。


 現在のミナトの下にはシャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエール、ロビン、フィン。さらにレッドドラゴンさん、ブルードラゴンさん、アースドラゴンさん、そしてフィンの部下である黒薔薇騎士団ブラック・ローズ、さらにはピエールの配下であるブラックスライムまでもいたりする。そしてお願いすればダンジョンから解放してくれたことに恩義を感じているファーマーさんも全力で協力してくれるだろう。


 はっきり言ってその戦力はヤバい。


『どこかの国や街を更地にしてほしいって言われたらどうしよう……、できないとは言わないけどね。さすがにそれは断ろうかな……』


 そんなことを思いつつミナトがカレンさんからの説明を待つ。


「依頼主はルガリア王家と二大公爵家であるウッドヴィル家とタルボット家です。依頼の種類は護衛依頼ですね」


 そんなカレンさんの言葉に、


「詳細を伺っても?」


 そう返すミナトであった。

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