第609話 夏の午後、冒険者ギルドへ
「うーん……、今日の太陽は特別に眩しい……。そしてこの夏の暑さが……、ツラいカモ……」
そう呟くミナトの頭上にある太陽の位置は随分と高い。休日明けの火の日、王都の天候は見事なまでに晴れ。燦々と降り注ぐ太陽光は王都の気温をグングンと上昇させている。
そんな王都の大通りを冒険者ギルドを目指してヨロヨロと歩みを進めるミナト。
「はは……、さすがに想定外だって……、は、はは……。マエニモコンナコトガアッタキガスル……」
後半は片言でそう呟くミナト。その姿は何かを絞り尽くされたかのように頬は痩け、肌の質感もカサカサで、その黒髪は艶のかけらも感じられない。どんよりと淀んだ瞳でただゆっくりと冒険者ギルドを目指すその姿はアンデッドを連想させてしまうほどである。
そんなミナトの背後に続くのは、
「もう!みんなやり過ぎよ。ミナトの身体的抵抗力は普通の人族と大差ないのに……」
夏の陽光に照らされることでその瑞々しい美貌をよりいっそう際立たせている美人のエルフがそう呟くと、
「吾輩、シャーロット様にだけは言われたくありませんな」
「私も同感です」
その美しいスレンダーな肢体に黒のワンピースを纏い艶やかな黒髪をなびかせる美女と同じくそのスレンダーな肢体に騎士服を思わせるジャケットを纏い輝く金髪と透き通るような美しい白い肌を誇る美女がそう返す。
『ワタシは楽しかったデスヨ?』
ミナトの肩に乗っている今日は青色モードになっているスライムから念話が届く。
「ピエールちゃんは問題ないわ。ロビンとフィンよ。あなた達は自重を学ぶべきだわ。それにフィンの部下まで……」
真昼間に王都の大通りで話す内容ではないので声のトーンは極力落としつつもシャーロットは会話を続ける気らしい。
「……そのお言葉はそっくりそのままお返ししますぞ?あのように激しくされてはマスターが保たないのでは……?」
「わ、私も部下たちも……、生前の姿をマスターから頂けたことが嬉しく多少張り切ってしまったことは反省していますがシャーロット様ほどでは……」
対するロビンとフィンもきっちりと反論し争う構えを見せる。
『まさか本当についさっきまで……、まさに寝る間も惜しんでって……、そりゃ夏の太陽にも負けるくらいに消耗するハズで……、あ……、着いたみたい……』
もはや呟きを口に出すこともできないミナトはやっとのことでその視界に冒険者ギルドの建物を捉える。
昨日、ミナトが目論んだ『遅く起きた休日に一人で優雅に温泉を満喫するプラン』はあっという間にどこかへと消え去り、大量の美女と楽しむ温泉ツアーへと変貌した。その結果、翌日の午後であるつい先程まで本当に色々とあったのである。
東京でバーテンダーをしていた時には考えもしなかったが、週明けではあるがBarを休むことも頭をよぎったミナト。
しかし誰にも話さないとはいえさすがにこの理由でBarを休むのはバーテンダーとしてどうかと考えたミナトは開店準備のためBarへとやってきた。
そこで冒険者ギルドから『ギルドに来てほしい』という連絡を受けたのである。
ミナトが消耗していることを理解し、そのことに関してちょっぴりの罪悪感をもつ美女たちが開店の準備はしてくれると言ってくれたので、シャーロット、ピエール、ロビン、フィンを伴うことにしてミナトは冒険者ギルドを目指したのだった。
ギルドの扉をやっとのことで開け、受付いるはずのカレンさんを探して移動を開始するミナト。
その様子に、
「おい……、まただぜ……」
「よく生きているな……」
「羨ましいか?と言われてもな……」
「俺はそれでも……」
「ちょっと羨ましい気がする……?」
「やめとけって。殺されるぞ?」
「なあ、ロビンちゃんっていったら……」
「ヤメロ!それ以上は言うな!」
「フィンさんの部下の嬢ちゃんたちも……」
「ダメだ!それ以上は口に出してはいけない決まりで……」
「もしかして全員を……?」
「「「「マジか!?」」」」
周囲の冒険者たちによるそんな会話を気にしていられないほどに今日のミナトは疲労感でいっぱいいっぱいなのであった。
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