第608話 これはさすがに想定外!?

「うむ。王家の思惑がどうであれ我らは世話になっているカレン殿のためギルドからの依頼を達成するだけであろう?」


「ん。逆らう奴は蹴散らすだけ!」


 そんなセリフと共にミナトに気配を悟らせることもなく広大な湯船に姿を現したのはデボラとミオである。


 デボラはその燃えるような真紅の髪をタオルで巻いただけの堂々とした仁王立ち。ミオもそれを真似たのか一糸纏わぬ状態で可愛い胸を張っている。


 二人のあまりにも突然な登場に驚くミナト。気配を全く感じなかったのだ。遅く起きた休日に一人で優雅に温泉を満喫するという当初のプランは既に大幅な変更を余儀なくされている気がする。


「あら?遅かったじゃない?」


 シャーロットがそんな言葉を二人に投げかけると、三人の美女がとびっきりの笑顔になる……、のだがその光景にミナトは、


『おかしいな……、シャーロットの背後に黒衣の人型のナニカが……、デボラの背後に赤い竜、ミオの背後に青い竜が……、互いに睨み合っている姿が見えてような気が……』


 そう心の中で呟いていた。


「ふ、二人とも……、セッカクダシ湯船ニツカッテミテハ……?」


「うむ。そうさせてもらおう」

「ん。もちろん」


 背後で寛ぐシャーロットから視線を外し、デボラは湯船の中とは思えないほどの速さで湯船に浸かっているミナトの左側面へと移動しその左腕をガッチリとホールドする。


 当然ここはお風呂なわけでミナトの左腕にはデボラのそれはそれはダイナマイツな二つの果実が……、しかしそれを実感すると同時に、


「ミオ!?」


 デボラと同じく信じられない速度でミナトとの距離を詰めたミオはその小さな背中をミナトの上半身に預けようとして……、さすがにそれはどうかと思い右腕でミオを小脇に抱えようと行動を開始したミナトだが、


『あれ!?動けない!?』


 その右腕は微動だにしなかった。


「あらあら〜?遅れてしまいました〜」


 ゆったりとした声と左腕から感じる圧倒的なその質感。いつの間にか湯船に姿を現したナタリアがミナトの右腕をホールドしている。


 ぴと。


 ミオがミナトに背中を預けて気持ちよさそうに目を閉じる。


 そんなミナトの背後からシャーロットの甘い吐息が漏れてきた。


 先ほども述べたが、遅く起きた休日に一人で優雅に温泉を満喫するという当初のプランは……、既に大量の桃色で塗り替えられているらしい。


『う、動けない……』


 シャーロットたちは満足そうに寛いでいるが、その一方で身動きの取れないミナトである。


「出遅れてしまいました……」


 動けないままに台詞の方へ視線を向けると、湯船にさらにもう一つの人影が現れる。


「オリヴィアも遅かったわね?」


 シャーロットの言葉にやや恨めしげな視線を返すのは一糸纏わぬ姿に真っ白なケモ耳と尻尾を生やしたバージョンのオリヴィアである。


「何度も言うけどお風呂にその耳とシッポは必要なのかしら?」


「マスターから時々はこの姿も見せてほしいと言われておりますので……」


 ケモ耳をぴこぴこさせつつ振り返ってこちらに背を見せつつ尻尾を振る姿は破壊力がありすぎるので勘弁してほしいミナトである。


「ミナトが好きなら仕方ないわよね……」


 そんな台詞を甘い吐息と共に耳元で囁かないで頂きたい。そんなことを思っていると、


「マスター!いっしょにお風呂デス〜」


 ぽよん。


 虹色の球体がミナトの頭上に降ってきた。


『ピエール。ああ、この冷たい感じが……』


 ひんやりつるすべの感触が温泉と周囲の状況で暖められた頭に心地よい。今日は幼女モードじゃなくてよかったと思うミナトだった。


「昼に入る温泉というのもまた一興、吾輩は好きなのだ」

「風呂というものがこれほど心地よいものだと私は知らなかった。人の姿を頂いたマスターには感謝しかない……」


 そんな会話をしつつ二人連れ立って現れたのは、スレンダーで綺麗な黒髪をした美女と輝く金髪、透き通るような白い肌湛える美女。ロビンとフィンである。


「おお!マスターではないか!吾輩もご一緒させて頂こうか!」

「マスター!それでは私も……」


 そんないそいそと湯船に入ってこなくても……、などと考えるミナト。ちなみにだが当然の如く二人とも何も纏っていない。


『タオルで隠す文化ってこの世界にはないのかな……?』


 ミナトの心の呟きは残念ながら誰のもとにも届かない。


「おっと、せっかくマスターもいるのだし皆で楽しむことにしませんか?」


 フィンのその言葉と同時にフィンの足元から次々と全裸の女性陣が飛び出してくる。


「きゃー!お風呂です〜。本当に気持ちイイんですよね!」

「グールの時は水浴びすらできませんでした〜。もうこの快楽からは離れられません!」

「風が心地よい……、ゾンビでは感じることができなかったこの感覚……、最高です!」

「レイスの状態が長かったですから〜、まだ水の感触になれません〜」


 あっという間に一面に展開される桃色の光景。


 繰り返しになるが遅く起きた休日に一人で優雅に温泉を満喫するという当初のプラン……、ミナトはもはやそんなものはこの世に存在しないことを悟る。そして、


「この世界を楽しむことに決めていたけど、これはさすがに想定外だったかなぁ……」


 現在の自分が幸せであることを十分に認識しつつそんなことを呟く午後であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る