第607話 目の保養も大切に
「ま、王都に人が集まる時期の依頼だから、護衛とかどこかの守備要員の依頼じゃないかしら?」
非常に落ち着いたトーンかつどこか楽しげな様子で美人のエルフがそう言ってくる。
ここはミナトのお城にある大浴場というか圧倒的な大空間を誇る温泉施設に造られた湯船の一つ。
肩まで湯に浸かっているミナトのすぐ背後、シャーロットは湯船の縁に腰を掛けその美しい金髪をタオルで纏めている以外は一糸纏わぬ姿で足を組み寛いだ様子を見せていた。
「そう言われるとそんな気がしてくるな……。ピエールもいるしそういった依頼はウェルカムで……」
建物内であるはずのこの空間の上空に広がる太陽と青空を見上げつつそう返すミナト。ミナトもシャーロットとはもう一年以上の付き合いである。眼の保養に非常に効果的なシャーロットがいるこの状況は嬉しいと思いこそすれ、以前のように赤くなって取り乱すようなことはない。
「それにしてもルガリア王家は随分と冒険者のことを買っているみたいね?」
「シャーロットも聞いた?それはおれも驚いているよ。貴族的な打算はあるんだろうけどそれが結果としておれ達や冒険者によいことであればそれでいいかなとも思っている……」
シャーロットにそう返すミナト。王都で開催されるルガリア王国の夏祭り、この催しには各国からも要人や貴族が訪れるという。
その際、彼等は各自で護衛を用意してくるが、王都に詳しい者が必要な時には王都で活動する冒険者を雇うことになるのだそうだ。これは王都の冒険者にとって稼ぎ時であると共に多数のトラブルを招くことにつながるらしい。
そこでルガリア王は各国の大使を王城へと招き以下のことを伝えたという。
『ルガリア王国は国と冒険者との連携に力を入れている。我が国の冒険者へその身分を笠にきた理不尽な要求をするのであれば、相応の報いを受けることになるだろう。特に容姿が美しいから我が物にしようなどという愚かな行為はその身を破滅に導いても文句は言えないものと心得よ』
つまりは依頼者である貴族から理不尽な扱いを受けるようであれば反抗しても構わないとルガリア王家がお墨付きを与えたのである。
シャーロットが冒険者ギルドで聞いてきた話では当然、各国の大使からは不満の声が上がったようだが王からは『ならば勝手にせよ。そのトラブルに我が国は絶対に関わらぬ』と言い放ったとか。
「ルガリア王国は自分たちだけでもやっていけるくらいの豊かな大国だけど、他国の関係より冒険者との関係か……」
「今はあの連中へ対策を優先しているかもしれないわね」
ミナトの呟きにシャーロットがそう言ってくる。
シャーロットの言うあの連中とはもちろん東方魔聖教会連合のことである。神聖帝国ミュロンドで教皇に成り代わっていた東方魔聖教会連合の男が口走っていたが、どうやら彼等は豊かなルガリア王国をその手に入れるという野望を持っているらしい。神聖帝国ミュロンドは国としていつの日かルガリア王国を侵略したいという野望を奥底に抱えていたのかもしれない。その辺りを東方魔聖教会連合に利用され踊らされた結果が先の騒動であるとミナトは考えていた。
ミナトとその仲間達が気に入っている現在のルガリア王国を武力で堕とすというのは現実的ではない。だが東方魔聖教会連合はミナト達でも看破できないほどの隠蔽技術を所有している可能性が高い。深く静かに策を弄してくるのであれば足元を掬われる可能性はゼロではなかった。
「今は冒険者の強化……、国の戦力的な充実を考えているのかもしれないね」
美人のエルフによる見事すぎる肢体によって眼に十分な栄養を行き渡らせつつミナトがそう呟くのであった。
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