第606話 ミナトは休日の昼下がりを楽しむ
そんなカレンさんの来店があった翌日。今日は無の日、ミナトのいた世界の日曜日であり、王都の休日である。
この世界の曜日は基本的に前の世界と変わらない。曜日にはこの世界を構築する属性が割り当てられており、火、水、風、土、光、闇、無の七日で一週間となる。このときの無の日が日曜に該当し、一般的な職業の者達は無の日を休息日としていた。ミナトもその習慣に合わせてBarの休日は無の日としている。
ちなみに四週間で一ヶ月、十二ヶ月で一年。一月から十二月まであるのは変わらない。月の日数はそれぞれ微妙に異なるところも同じであった。
「あ〜、最高!真っ昼間から温泉に浸かれるなんてなんという贅沢!そして至福!」
広大な湯船を珍しく一人で満喫しているミナトが心から気持ちよさそうに声を上げる。
ここはミナトとその仲間たちの居城。まだ正式名称はないが通称ミナトの城である。
大きく深そうな二重の堀。
一つ目の堀にはピエールの眷属である大量のブラックスライムでそれはそれはみっちりと満たされている。落ちるのはもちろんダメだが、敵意をもって近づく者には酸弾で迎撃するという極悪な設計だ。
二つ目の堀は素晴らしい透明度の青く澄んだ水が湛えられているがそこには水魔法の極みである
高い城壁を備えた巨大な要塞とも表現できそうな強固な城。城壁、城門、パラスである非常に巨大な尖塔などまでところどころに金色があしらわれた見事な漆黒を湛えており、最高品質のオリハルコンとアダマンタイトを贅沢に使用した傑作であった。
そんな巨大なパラスの一画に造られているのが現在ミナトが絶賛満喫中の浴場である。
建物の中であることは間違いないが、そこには広大な森が広がり、その空間に見事な石造りの露天風呂や高級な木材を惜しげもなく使った木造の趣深い湯船、そしてサウナ専用の小屋もあり、何故か湯気を上げる温泉の滝もある。パラスは非常に大きな建物ではあるがそれを考えても広大過ぎる温泉郷が広がっているのであった。
『シャーロットによるとやっぱりダンジョンと同じような空間らしいし、ピエールが分裂体で探索してくれているけど森の終点はまだ見つかっていないらしい……』
今のところ普通の動植物がいるだけで魔物の
そんな最高の浴室施設は当然の如くこの城で暮らす者たちに大人気である。特にフィンとその部下たちは久しぶりに人族や獣人の姿を取り戻したこともありその心地よさにすっかりハマってしまっていた。ときどきあちこちに恍惚感を溢れさせているホラー色の強い斬新なオブジェを見かけることもあるが……、そこはご愛嬌であった。
ミナトが自由に使用することを許可しているためいつも一定数の美女の姿を認めるのだが今日は不思議とミナト一人で堪能している。
『ふっふっふ。おれも男だ。みんなと一緒がいやとは言わないがこうしてこの巨大な温泉を独り占めというのもなかなかに捨てがたい!』
そんな開放的な世界に身を委ねて楽しむ休日の昼下がり……、残念ながらそんなものは長くは続かない。
「結局、依頼の中身については教えてくれなかったのよね?」
ぴと。
それは索敵能力には自信のあるミナトに一切の気配を感じさせることなく……、美しい声色の言葉が耳に届くのと、背中に華奢ながらに絶妙な柔らかさを兼ね備えた感触を認めるのはほぼ同時であった。
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