第605話 王都の冒険者事情

「いえいえ、別にシャーロットさん達のことを指しているわけではありませんよ?王様はあくまで王都を拠点に活動している全ての冒険者についておっしゃっていましたから」


 珍しい四杯目の白ワインを傾けつつカレンさんがそう言ってくる。既にお客様はカレンさん一人になっている。今日はちょっと静かな夜らしい。


「マティアスさんは言及しなかったみたいですけど……」


 カウンターに立つバーテンダーとは思えないぐったりした様子をみせるミナトだが、


「確かにシャーロットさん達の力はスゴイですけど、現在の王都では冒険者さん達の成長が著しいんですよ。その代表はやはりティーニュさんと鉄の意志アイアン・ウィルの皆さんですね」


 笑顔でカレンさんが教えてくれる。


 現在、王都の冒険者ギルドではロビンとファーマーさんによる、『ロビンちゃんの楽しい地獄のダンジョン戦闘訓練』と『ファーマーさんと学ぶ素敵なヤバい魔法実技』という二つの講習会をこれと見込まれた冒険者にルガリア王家と冒険者ギルドの連名による指名依頼として受講させていた。


 ギルドが管理する特殊な契約魔法で内容の流出防止と得た力を悪事に使ってはいけないという二つの縛りをつけてあるという……、ちょっと人によってはロビンの変身シーンあたりで心にトラウマが残るかもしれないが、たぶん安心安全な講習会である。


 それらに参加している冒険者の中でもA級冒険者のティーニュとB級冒険者パーティ鉄の意志アイアン・ウィルの四人は別格と呼ばれるまでに成長していた。


 そしてこの春からミナトのパーティにフィンが加わったことで『フィン様と見目麗しい言葉にできない仲間達と行く本格野戦訓練』が設けられることとなった。ティーニュと鉄の意志アイアン・ウィルの四人はフィンからも『見所がある』と評価されているとか。


 ちなみに鉄の意志アイアン・ウィルはリーダーのウィル、ケルノス、ブラック、アルバンの四人組のパーティである。


 初めてフィンとその部下達に引き合わされた時、鉄の意志アイアン・ウィルの四人はフィン以下全員が美人な黒薔薇騎士団ブラック・ローズを前にロビンの教訓を忘れて新たな出会いという希望を歓迎した。ただ、その希望はフィンによる『炎を纏って皮膚と筋肉が焼け爛れ落ちた先から剥き出しの黒い骨格が現れる』という新バージョンの変身と部下の真の姿を目の当たりにして粉々に砕け散ったらしい……。


 多少のトラウマは残るかもしれないがルガリア王家と冒険者ギルドが密かに主導する冒険者強化の取り組みは順調であると言えるのであった。


「ま、優秀な冒険者が増えるのはね……」


 そう呟くミナト。どうも東方魔聖教会連合はルガリア王国に執着があるらしい。あの者達は魔物を利用する策を弄することもあるため、対魔物やダンジョン内の戦闘を専門にする冒険者の強化は歓迎すべきものである。


 そんなことをミナトが考えていると、


「そうでした!」


 思い出したかのようにカレンさんが声を上げた。


「後日ギルドにお招きしてご説明しますがお祭りの期間中はミナトさんのパーティにもギルドから指名依頼を出させて頂く予定ですので宜しくお願いしますね」


 やはりミナト達に何やら依頼したいことがあるらしい。指名依頼とはいうが本当の依頼主は誰なのか……。そんなことを思いつつ、


「カレンさん?F級冒険者って指名依頼は受けられないはずなんですけどね……」


 ミナトのそんな返しに、


「そんなこと言わずにお願いします〜」


 そう言いながら追加のワインを要求するいつになく飲む体勢のカレンさん。暑い王都の夜はゆっくりと更けてゆくのであった。

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