第604話 賜ったお言葉とは
白ワインを楽しみつつ話すカレンさんによると今日はギルド職員として王城に呼ばれたらしい。
『冒険者ギルドの受付嬢って普通は王城に呼ばれたりしないよね。この辺りが不思議なところだけど……、ま、その辺りもファンタジーってことで!』
深く追求してはいけない気がして取り敢えずその辺りのことは追求しないミナトである。
「今日は夏祭りの期間中に王族や高位貴族がこの王都を訪れる予定となっている各国の大使の方々が王城に集められたのです。そこに私も呼ばれてしまいまして……」
ほんのり酔っているのか、あはは……、と笑いながら言ってくるカレンさん。
「たしかアルカンさんとバルカンさんもそんことを言っていたような……。夏祭りって冬祭りのような王都に住む庶民のものではないのですか?」
たしか冬祭りは現在のように魔道具や物流が発達していなかった頃の王都で当時の国王が気分だけでも盛り上げようと冬の祭りというものを考えたと聞いいていたミナト。
「南方を除いて冬は雪が多く物流が滞るこの大陸では貴族も国家も交流は夏が中心となります。王都は街も盛り上がりますが、王城や高位貴族の屋敷でも夜毎来賓を招いてパーティが開かれます。国威発揚の場といったところでしょうか。ルガリア王国では第一王女様の体調不良ということで夏の式典などが自粛されていましたが今年の夏からは本格的に行うようです」
『なるほど、大国とされるルガリア王国のおもてなしで各国を圧倒するわけね。でもやっぱり大使っているんだな……。神聖帝国ミュロンドの大使館……、なんか地下にいそうで不気味だけど……、いや、あの国は教会と大使館が同じ気がするから王都にはないのか……?』
心の中でそう呟きつつ頷いてみせるミナト。王家にとっては大切な外交手段の一つなのだろう。
近くからの念話で、
『マスターの居城に招けば全員がその場に平伏するのではないでしょうか?』
などという言葉は聞こえなかったことにする。
「そして今日は各国の大使の方々に向け夏祭りに関する王様からのお話があったのです」
『おれの認識と同じなら大使といえば対ルガリア王国の外交における国の名代だよね。そんな各国の大使を呼び出しての話ってなんだろう?』
頭の中に疑問符が浮かぶミナト。
「それにどうしてカレンさんが?」
「王都の冒険者への対応についてでしたので……」
そんなカレンさんの話を聞きつつミナトは三杯目の白ワインを彼女のグラスに注ぐ。どうやら王都の冒険者に関する話であったらしい。カレンさんは、
「王都を訪れる各国の要人は各自で護衛を用意しますが、王都に詳しい者が必要な時には王都で活動する冒険者を雇うことになるのです。自身の部下や子飼いの冒険者の腕を自慢するため、大森林の浅層で狩りをする場合などには地元の冒険者がいた方がいいですからね。夏祭りがあるとその手の依頼が急増しまして……、例年、冒険者の皆様にとっての稼ぎ時ではあるのですがトラブルも多く……」
そう続けてくれた。
「そういった過去の状況を鑑みてマティアスさん……、じゃなくて王様が事前に大使の方を招いてお言葉を授けたと……?」
「そうなりますね」
ミナトの言葉に笑顔で返答するカレンさん。未だ誰も紹介せず、また正式に名乗っていない常連のマティアスさんが、この国の国王マティアス=レメディオス=フォン=ルガリアであることを華麗にスルーしてくれる辺りがちょっと怖かったりもする。
「ちなみにどんな内容かを伺っても……?」
ここまで聞くとそう問わずにはいられないミナトである。
「端的に申し上げますと……、ルガリア王国は国と冒険者との連携に力を入れている。我が国の冒険者へその身分を笠にきた理不尽な要求をするのであれば、相応の報いを受けることになるだろう。特に容姿が美しいから我が物にしようなどという愚かな行為はその身を破滅に導いても文句は言えないものと心得よ、といったところでしょうか?」
指折りながらそう言ってくるカレンさん。
『全部おれ達に関連する話だったー!?』
バーテンダーとしての優雅な所作を崩すことなく心の中でそう叫ぶミナトであった。
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