第599話 カーラ=ベオーザは報告する
「……という形でミナト殿は瘴気によってクラレンツ山脈の街道を封鎖しました。本人からは『言ってくれたら瘴気はいつでも消しますから』との言葉を頂いています。そうして我々は誰一人欠けることなくバウマン辺境伯領に到着しました。その後は特に問題など起こることなくジョーナス王子と共に王都まで帰還を果たした次第です」
そう言ってカーラ=ベオーザは今回の旅路に関する報告を終えた。彼女としては可能な限り客観的に見た真実のみを報告したつもりである。
荒唐無稽な話であることは間違いない。
そのためカーラ=ベオーザはバウマン辺境伯領の領都イースタニアとウッドヴィル家公爵領の領都アクアパレスにおいて今回の行程で起こった出来事の簡潔な内容を書状に
そのことで報告がより円滑にできると考えての行動ではあったのだが……。
ここはルガリア王国の王都。ルガリア王国でもそれと知られた二大公爵家の一つウッドヴィル公爵家の屋敷。その応接間でカーラ=ベオーザの報告を聞いていた五人の反応はというと……。
国王マティアス=レメディオス=フォン=ルガリアは顔を伏せ、片手で両目を覆っている。
王国で宰相を務めているハウレット=フィルグレイは天井を仰ぎ、眉間を指で揉んでいた。
「はっはっは!彼の国は何かと我が国にちょっかいをかけてきた時代もあったからな!流石はミナト殿とその仲間たちと言ったところか!」
嬉々とした反応を見せたのはウッドヴィル公爵家の前当主であるモーリアン=ウッドヴィル。
「父上……、まあ、その通りではあるのですけどね……」
そんな言葉に肩をすくめて反応するのはモーリアンの息子で現当主のライナルト=ウッドヴィル。
「皆さんがご無事で本当によかった……」
そう呟いて胸を撫で下ろすのはライナルトの娘であり公爵家の知恵者として名高いミリム=ウッドヴィル。
本日の午後に帰還するというカーラ=ベオーザからの先触れを受け集まった五人である。
国王であるマティアスは先触れがあったとの連絡を受けた直後、本日の公務を全て取り止め、お忍びという形で王妃様アネット=セレスティーヌ=フォン=ルガリアと第一王女であるマリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリアを伴ってウッドヴィル公爵邸を訪れていた。
ちなみに現在、第一王女のマリアンヌは王妃様同伴の下、別室に案内されたジョーナス王子と感動の再会の真っ最中である。
「カーラ=ベオーザよ……」
ゆっくりと顔を上げつつそう声をかける国王マティアス。
「そなたの書状は我も読ませてもらっていた。あの書状も今の報告も全てそなたが目の当たりにした事実なのだな?」
「はい。我が剣にかけまして……」
カーラ=ベオーザの言葉を受けて頷く国王。当然、彼もカーラ=ベオーザという人物が極めて有能かつ実直で信じるに足る騎士であることはよく理解している。よく理解してはいるが確かめずにはいられない。
「色と欲に目が眩んだ枢機卿と教皇に面白半分に雷撃を与える人形を贈り、ほぼ再起不能に。そのことを愚かにも好機と捉え我が国への宣戦布告までも口にした第一王子をあしらい、大量のエンシェントスライム乱入に乗じて帝国の秘密兵器と第一王子直轄の上級神殿騎士を全て駆逐……。その渦中にあって教皇が東方魔聖教会連合の何者かに入れ替わられていたことに気づき、その者を斃して皇帝から譲歩を引き出した。同時期にアンデッドで国境の街ファナザを急襲、我が国に攻め入ろうと集められていた神殿騎士を全て無力化。帰途におけるクラレンツ山脈の街道にて皇帝とは別派閥と思われる枢機卿率いる神殿騎士と魔物の群れに襲われるもロビン殿と新たにテイムしたアンデッド殿で全てを撃退。その後、帝国の斥候に尾行されるが、瘴気によって街道を封鎖し斥候は撤退。使用していた帝国の貴重な魔道具もこちらで回収し無事に帰還したと……」
端的に要約した国王の言葉……、まさに荒唐無稽、信じてもらう方が難しい内容ではあるのだがカーラ=ベオーザは、
「そ、その通りです!」
としか答えることができなかった。
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