第597話 森の中に気配が二つ
ウッドヴィル公爵家一行が休息している場所から東へ二百メートルほど移動した辺り……、街道から外れた森に中に気配が二つ。
迷彩服を思わせる生地で作られた全身を覆うツナギのようなものを纏った二人組をそこ見つけることができる。目出し帽を被っておりその表情を窺い知ることは難しい。
一人が金属でできているらしい円盤状のものとミナトたちがいる方角を交互に見つめており、もう一人は陽の高い日中にも関わらずランタンのようなものを掲げている。
木陰からじーっとその様子を伺うテニスボール大のスライムの存在には全く気が付いていないらしい。
『あっちの円盤がおれ達の場所を見つける魔道具で、あっちのランタンが魔物避けかな?』
そんなことを考えているミナトの延髄のあたりには、外套モードのピエールによって『ぷすっ』という効果音がよく似合う触手的から伸びた針が刺さっている。それを通してピエールの分裂体が見た光景を脳内に投影することが可能なのだ。
『えっと、なになに……?』
神聖帝国ミュロンドの帝都グロスアークでやったときは四カ所からの同時中継で脳が大変だったが一カ所である今回はそのような負荷はかかっておらずミナトには余裕がある。
「どうだ?」
ランタンを掲げている者が円盤とこちらを交互に確認している者に声をかけた。
「追跡はできている。魔力持ちが多いからな。反応が固まっているから魔物との区別も容易い」
どうやら円盤状の金属板は魔力持ちの居場所を特定する魔道具らしい。
「お前こそ大丈夫なのか?それが使えなくなった瞬間に俺達は魔物の餌なんだぞ?」
今度は円盤状の魔道具を持つ者が昼間なのにランタンを掲げている者へと問いかける。
「大丈夫だ。こいつにはまだまだ余裕がある。しかし実験では問題なかったと聞いて持ってきたがここまでとはな……」
ミナトの予想通りランタンは魔物避けの魔道具のようだ。
『シャーロット?ああいった魔道具があるって知ってた?』
『私は知らなかったわ。魔物避けの薬草っていうのは昔からあるけど魔道具にするって話はなかったわね』
『技術的には高いの?』
『私がいたアムル帝国も私が出奔する前まではかなり魔法が研究されていたけどそんな魔道具はなかったわよ?』
『神聖帝国ってちょいちょい高い技術を見せつけてくるよね?』
『村々の魔物対策とかもっと平和的に使えばいいのに……。斥候に使わせるなんてもったいないって思わないのかしら?現に私たちの前では無力じゃない?』
映像を共有しているミナトとシャーロットがそんな念話を交わす。
昨日の野営時にミナトたちの索敵能力は街道沿いに二つの気配を察知した。最初は止まっていたため、街道沿いで野営することを決めた単独の商人と護衛の冒険者かとも考えた。
だがその二つの気配は今朝からはぴたりと二百メートルというその間隔を維持しつつ街道を外れた森の中を移動してきたのである。
クラレンツ山脈は一般的な人族や亜人にとっては剣呑な魔物が多く危険な場所とされている。わざわざ街道から外れる者などそうはいない。その行動に商人などではないと確信したミナトでありピエールの分裂体を向かわせたところ先ほどのような光景に出会ったのだ。
魔物避けの魔道具を使用していることでクラレンツ山脈の弱い魔物を寄せ付けることなく森を利用してウッドヴィル公爵家一行を尾行しているようでさらに、
「もう少し近づかないと情報が得られんぞ?」
「そう言うが上の話では魔物を使役する魔道具を持ち出したブリュンゲル……、元枢機卿殿とその配下で元枢機卿殿に心酔していた上級神殿騎士どもがこの街道沿いで全滅したらしい。ここは慎重に、だ!」
「クラレンツ山脈の魔物を使役したのにか?すげえ数が集まるって話だったろう?」
「発動中に破壊され魔物の同士討ちに巻き込まれた可能性が高いっつう報告書があっただろうが!?」
「だったらあいつら自体の強さはしれているんじゃ?」
「
そんな会話を聞くことができる。
『これは皇帝以外の派閥から送り込まれた斥候ってことでいいでしょ?』
『そうね!それでいいと思うわ!』
『うむ。消し炭にできぬのは残念だが、マスターの新たなスキルには興味がある!』
『ん。楽しみ!』
ふよふよ〜。
【闇魔法】の
【闇魔法】
全ての音や生命反応を感知不能にする透明化に加えて
「テイムした魔物で確認しました。やはり帝国の斥候です。追い払いますね?」
そう言うと、
「そ、そうだな……、ミナト殿に任せようかと思う……」
「本当に森に潜む斥候を追い払うことなどできるのでしょうか……?」
カーラ=ベオーザとティーニュがそんな反応をするのであった。
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