第591話 闘争とその後で……

「あの魔道具を使用している者達はフィンに任せよう!吾輩は周囲の魔物を頂く!」


 そう話すのは禍々しい大剣を肩へと担ぎ、雷光を纏い呼吸の度に炎を吐くアンデッドの巨馬に跨ったロビン。首から上がない首を失った闘神ヘル・オーディンモードなのだが何故かその声はミナトの耳にも届いてくる。


「かたじけない。皆の者!我等が主であるマスターに仇なす者どもに圧倒的なまでの恐怖を!」


 漆黒のスケルトンブラック・スケルトンモードのフィンの号令に黒薔薇騎士団ブラック・ローズが武器を構える。


 そうしてロビンを乗せた巨馬が魔物の群れに突っ込むと同時に、黒薔薇騎士団ブラック・ローズはブリュンゲル枢機卿を含めた神殿騎士達に猛然と襲いかかった。


 ちなみにウッドヴィル公爵家一行の周囲にはシャーロットによってしっかりと結界が張られており、小箱の魔道具が機能を停止した後もウッドヴィル公爵家一行に一切の被害は出なかった。


 そして闘争の結果というと……、


「そんなバカなことが……、帝国最強の神殿騎士が……、帝国最高の魔導技術の粋が……、そんな……、そんな……」


 夥しい数の魔物の死体と瀕死の神殿騎士達が地面に転がっている。そんな状況の中心で呆然と言葉を呟き続けているブリュンゲル枢機卿……、そんな結末が出来上がっていた。


「どう?死よりも上の恐怖を味わえた?」


 ミナトのそんな言葉はもうブリュンゲルには届いていないのかもしれない。ミナトの傍には人の姿に戻ったロビンと黒薔薇騎士団ブラック・ローズの面々がいた。


「ベオーザさん!とりあえず決着はついたと思うからもう出発してもいいんじゃないかな?野盗の襲撃を撃退したってことで?」


 振り向いてそう言ってくるミナト。その笑顔に『そんな感じでよろしくお願いします』という圧をひしひしと感じるカーラ=ベオーザ。


「そ、そうだな……、我等は野盗の襲撃にあったがジョーナス様の護衛依頼を受けていたミナト殿が率先して野盗を撃退した……、ということだな。いろいろと補足するところはありそうだが……」


 最後にそう付け加えるカーラ=ベオーザに笑顔で頷いてみせるミナト。


 ミナト達もカーラ=ベオーザがウッドヴィル公爵家やルガリア王家に全てを報告することは理解している。この場を納めてくれればそれでよい、その意図までもきちんと把握してくれたカーラ=ベオーザに感謝するミナトである。


 一方で、


「ロビン殿!相変わらず見事な剛の剣でした」

「ティーニュ!そなたも周囲への警戒を解いていなかった。なかなかに優れた技量を身につけてきたではないか?」

「ん。ティーニュも日々成長している」


 そんな話をしているのはA級冒険者のティーニュとロビン、そしてミオ。ロビンとティーニュは冒険者ギルドが主導する冒険者の修行コースにおいて師弟の関係にある。ミオも交えて随分と仲が良いのである。


「ありがとうございます。ミオさん、ロビン殿。ところでこちらの皆様は?」


 そう言ってティーニュが視線を向けた先にいるのは金髪で色白な美貌の騎士が率いる見目麗しい人族と獣人の女性によって構成される騎士団。


「そうかお主達にはまだ紹介がすんでおらぬのだな。マスターよ!」


 ロビンにそう言われてカーラ=ベオーザ達にはフィン達の紹介をしておいた方が良いかと考えるミナト。


「いいんじゃない?どうせ王都に帰ったらルガリア王家にも二大公爵家にも紹介しないといけないんだしね?」


 そうしてニコリと笑顔になる美人のエルフ。その笑顔が少しだけ黒いことにミナトは気付く。


「シャーロット?」


「騎士とポーター達には公爵家から箝口令が出るんでしょうけどそれじゃ悪いわ。ちゃんとお礼を用意しないとね。回収コレクション!」


 その途端、周囲に圧倒的な魔力が展開される。するとロビンによって山と積まれた魔物の死体から魔石が抜き取られシャーロットの眼前に魔石の山ができた。


「すごい数だからこのクラスの魔石でも換金したらかなりの金額になると思うわ。これを騎士とポーターの特別報酬として上乗せしてもらいましょう?」


「口止め料ってやつね……」


「そうとも言うわ!」


 カーラ=ベオーザ以下、ウッドヴィル公爵家の騎士達もポーター達も度重なるあまりにもな光景に再度固まっている。


 シャーロットが使った特殊魔法である回収コレクションは地属性と光属性の魔力で対象を判別、風属性の魔力に水属性を少し加える形で対象の状態を損なうことなく一定の場所に集めるという魔法である。属性魔力の四重起動を必要とすることからおそらく使えるのはシャーロットのみである奇跡的な魔法だった。


「とりあえず帝国の連中はもういいから出発して、今夜の野営の時にでもみんなに紹介しようかな……」


 取り敢えずの方針を決めるミナトであった。

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