第589話 ミナトは紹介しようとする

 ブリュンゲル枢機卿……、状況的には元枢機卿かもしれないが……、彼が掲げた小箱から鈍い光が放たれる。


「何かの魔道具……、おっと!?これは……」

「囲まれたわね」

「うむ。ずっと潜んでいたようだ……」

「ん。気づかなかった」

 ふよふよ……。


 周囲に起こった事態にミナトたちがいち早く反応する。


「ベオーザさん!魔物がきます。どうやら囲まれたようだ」


 ミナトの言葉に頷いたカーラ=ベオーザが騎士達に指示を飛ばす。


「総員、馬車とポーター達を中央へ!全方向からの敵に備えよ!」


 その指示に瞬時に応えて陣形を変更するウッドヴィル公爵家の騎士達。相変わらず見事な練度を感じさせる動きである。


「無駄なことを!」


 魔道具に小箱を掲げたままブリュンゲルがニヤリと笑う。そうして魔物の群れがウッドヴィル公爵家一行を包囲するかのように現れた。相当に数が多い。


「ミ、ミナト殿?」


 カーラ=ベオーザが声をかけてくる。ウッドヴィル公爵家の騎士達もその数に圧倒されているらしい。だがミナトたちは極めて冷静に魔物の群れを観察していた。


『キラーラビット、ゴブリン、コボルト、オーク……、あの狼はフォレストウルフにフォレストグリズリーかな?数は多いけど……、あまり強い魔物はいない?』


支配ドミネイション系の魔法を魔物に作用するようにして魔道具に組み込んだってところかしら?でもオークやフォレストグリズリーを従えるのが限界みたいね』


 ミナトの心の呟きに応えるようにシャーロットから念話が飛んできた。


『デボラ、ミオ、ピエールは大丈夫?』


 彼女たちは魔物であるから一応確認するミナト。


『うむ。何も感じぬな……』

『ん。ボクたちには効かない』

『大丈夫デス〜。何も感じまセン〜』


 そんな念話を返してくれたが、


『うむ。だがあの魔道具は戦闘に縁のない人族や亜人には脅威かもしれぬ』

『ん。使えば魔物の数だけは揃えられる。弱い魔物でも数を揃えて突撃させれば人族や亜人小さな街なら落とせるかも』


 デボラとミオがそう指摘する。


「この山に眠るといわれているアンデッドを従えるための魔道具か?」


 ミナトがそう問いかけると、


「知っているなら話が早い!私はこの力で貴様らを殺し、アンデッドを使役して祖国へと帰還するのだァ!」


 得意げにそう宣言するブリュンゲル。しかしミナトは一つのことに思い当たる。ちらりとシャーロットを見ると彼女は呆れたように肩をすくめてみせた。


『シャーロットさん!質問です!』

『はい。ミナト君!』

『ここから魔法であの魔道具を壊したらどうなりますか?』

『いい質問ですね。正解は支配を解かれた魔物が敵味方関係なく襲ってくる、でしょうね』

『だよねー』

『あれを壊して私たちが結界を張ったら解決すると思うわよ?数の暴力って言うじゃない?この数の魔物に一気に襲われたら私たち以外は保たないと思うわ』


 そんなやり取りを瞬時に行ってミナトは決断する。


「壊して結界の案を採用してもよかったけど、アンデッドを使役したいんだよね?せっかくだから紹介してあげるよ?眷属転移テレポ!」


 ミナトの言葉に導かれるように地面に浮かび上がった魔法陣から二つ人影が現れる。


「おお!マスターが吾輩をお呼びとは!」


 そんな台詞を発するのは黒髪のロングヘアーに情熱的かつ騎士の力強さを感じさせる意志が込められた赤い瞳を持った整った顔立ちの女性。今日の装いらしい白いワンピースがその細い肢体にとてもよく似合っている。


「マスターが再び私達を……。新たな闘争を我らにお与えくださるのか……?」


 やや物騒な台詞と共に現れたのは美しい金髪と白い肌を湛える引き締まった肢体を持つ薔薇をあしらった鎧姿の美しい女性。


 ミナトが誇る偉大なるアンデッドの騎士。ロビンとフィンがクラレンツ山脈の街道沿いに召喚されたのであった。

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