第584話 ミナトは魔法を行使する
ミナトの言葉と共に彼の身体から魔力が溢れ出す。
カーラ=ベオーザ率いるウッドヴィル公爵家の者達と、A級冒険者のティーニュ、そして第三王子であるジョーナスは息を呑む。アニムス・ギアガは魔力を限界まで蓄積した謂わば巨大な爆弾であるとついさっき聞いたのだ。
「なんと愚かな!アニムス・ギアガに魔法攻撃を加えれば即座に爆発するというのに……」
嘲の笑みでそう言ってくる教皇の言葉は既にミナトの耳には届かない。そして魔法に集中するミナトの右手に直径二センチほどの漆黒の球体が出現する。
これこそがナタリアたちアースドラゴンをテイムしたときに得た【重力魔法】
【重力魔法】
攻撃系極大重力魔法。触れた者だけに作用する小型で超高質量かつ超重力の物質を高速で放ちます。触れた者はその物質に飲み込まれ二度と出てくることはできません。生物のみに使用可能。ある程度の質量がある無生物や他の魔法が触れた場合、何ごともなく消滅するので遠距離からの使用には注意が必要です。躰に纏った結界や衣服でも消滅するので必ず直に当てられるよう使用しましょう。
攻撃目標は眼前のアニムス・ギアガ。
狙いを定めて漆黒の球体を放つミナト。得意とする【闇魔法】の
前回に使用したときと同様にギュルン!という音をミナトは聞いたような気がしたが、
「なっ?」
「はい?」
「「「「え?」」」」
声を上げたのはカーラさんベオーザ、ティーニュ、そしてウッドヴィル公爵家の騎士達。
無理もない。アニムス・ギアガの巨体が音もなく漆黒の球体に引きずり込まれたのである。そこにはただ小さな漆黒の球体だけが空中に残されているのみ。そしてポトリっと漆黒の球体が地面へと落ちる。コロコロと転がる漆黒の球体。
フッ……。
そして球体は消滅する。ちなみにウッドヴィル公爵家の執事兼元暗殺者のガラトナさんは目を見張り、第三王子のジョーナスは唖然として立ち尽くしていた。
そしてアニムス・ギアガが消滅した瞬間、
『ワタシの出番デス〜』
そんな念話が聞こえるのと同時に広場の隅で大人しくしていたピエールの分裂体たち……、つまり側から見た場合は世にも恐ろしいエンシェントスライムの群れが突如として動き出した。
スライムらしからぬ俊敏な動きで住民を犠牲にして造られた人型の魔道具へと各個が肉薄し、あっという間にその魔道具を体内へと取り込んだ。
彼等の状態を元に戻すことはシャーロットやミオにも不可能なこと。魔道具としてその身体と魂を弄ばれるくらいなら……、とはシャーロットの判断である。
エンシェントスライムの酸は全てのものを溶かすことができる。たとえ東方魔聖教会連合に魔法技術の優れた者がいたとしてもこうしておけば彼等の身体や魂にこれ以上干渉することは不可能となる。
『せめて安らかに……』
そう心の中で祈るミナト。
瞬きするほどの時間で住民の姿をした魔道具はエンシェントスライムの体内から消滅した。
パチン!
ミナトが指を鳴らすと大量にいたエンシェントスライムが一瞬にして姿を消す。
その全ての光景にその場にいる全員が絶句する。
広場の中心には呆然と立ち尽くす老人の姿をした者が一人。事態を飲み込むのに数秒の時間を要したようだがミナトの想定よりは早く戻ってきた。
「は……!?そんなバカな!?アニムス・ギアガが一瞬で消滅だと!?ありえん!何なのだあの魔法は!?それにエンシェントスライムだと……?き、貴様が操っていた……?それこそありえんことだ!エンシェントスライムは人族の身でどうこうできるような存在ではない!全てがありえん!あってはならんのだ!」
その身体は
「どうとでも解釈すればいいわ。さてと……、簡単には死ねないと思いなさい!」
そう言いながら凄い笑みを浮かべた美しいエルフが右手を高々と掲げるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます