第583話 シャーロットの言葉

 シャーロットの爆発的な魔力に一瞬はたじろいだ教皇リュームナスだが、その顔に再び下品な笑みを浮かべる。


「ふふふ……。確かに凄まじい魔力。流石はあのウッドヴィル公爵家が送り込んできた冒険者だけのことはある。貴方が類稀なる魔導士であることに疑いの余地はない。ですが貴方は何もご存知ではない!」


 教皇はさらに得意げに声を張り上げる。


「このアニムス・ギアガは魔力を限界まで蓄積した謂わば巨大な爆弾。起動条件は今から貴方達に飛び掛かろうとしている人型魔道具もしくはこの私……、この身体は作り物デコイですが、それが攻撃を受けた時と設定しています。そしてアニムス・ギアガの爆発による衝撃はどんな結界も通過する。この国の住民による尊い犠牲で造られた魔道具の爆発で死ぬか、アニムス・ギアガ爆発で周囲一帯を巻き込んで死ぬか、好きな方を選んで頂いて結構ですよ?」


 ミナト達の死、つまり自身の勝利を完全に信じた表情でそう語る教皇リュームナス。


『ミナト?準備はできてる?』

『ああ、アイツは逃げられない』

『うふふ……、さすがね!ではこの前と同じでアニムス・ギアガをお願いしていいかしら?』

『任された!』


 シャーロットの念話に素早く返答を重ねるミナト。


『うむ。周囲の守りは我が炎像の罠フレイム・カーヴ・スネアに任せよ』

『ワタシは人型魔道具を処理しマス〜』


 シャーロットとミナトによる念話の内容を瞬時に理解したデボラとピエールがそう念話を伝えてくる。


『ありがとう。私はあのゴミを処理させてもらうわ!』


 気迫のこもった念話がシャーロットから返ってきた。そうしてシャーロットが教皇に語りかける。言ってやりたいことがあるらしい。


「この私が何も知らない?笑わせないでほしいわ!二千年前の大戦で魔王に与した東方魔聖教会連合は東方魔道連と魔聖教会という二つの組織で創り上げられた」


 シャーロットの美しい声色によるその言葉に驚愕の表情となる教皇リュームナス。


「バ、バカな!?なぜそれを!?」


 彼がコントロールしている住民の姿をした魔道具もその動きを止めてしまうほどはっきりと動揺した姿を見せるが、シャーロットは言葉を続ける。


「アニムス・ギアガは人族や亜人の魂を肉体の一部へと圧縮したものと魔物を合成することで造られた合成生物キメラ。二千年前の狂った研究者が人族や亜人の魂を強制的に魔力へと変換する方法を思いついた。その研究者は病的な程に賢くてさらに非道な実験を積み重ねた末に魂を圧縮して変換すれば爆発的な魔力を得ることができることを証明した。それを利用してお前達の片割れである東方魔導連が造った合成生物キメラ……、それがアニムス・ギアガ。正解よね?」


 ニヤリと凄い笑みと共に教皇を睨みつけるシャーロット。凄みのある表情もまた実に美しいと思うミナト。


「バカな!バカな!バカな!なぜお前がそんなことを知っている!?我らの中でもそこまで知っておる者などごく僅か!我らの最高機密ではないか!?ま、まさかウッドヴィル公爵家はそこまで我らのことを……?」


 ちょっと誤解もしているらしいがそんなことに構うシャーロットではない。


「自分達の歴史を学んでいないのかしら?二千年前、貴様達の組織は壊滅的な打撃を受けた……。それを主導したのは誰よ!」


 シャーロットにそこまで言われたとき、教皇の頭で何かが繋がったらしい。わなわなと震えだし、その震える右手の人差し指でシャーロットを指しながら、


「美貌のエルフ……、強大な魔法の力……、そして我らを知っている……、まさか……、まさか……、アムル帝国で死亡したはずの……?」


「それ以上は言わなくていいわ!覚悟なさい!」


 二つ名を言われることが嫌だったのかそう言い切るシャーロット。それが合図となる。


唱える者キャスター……」


 ミナトがそう唱えるのを教皇とシャーロットの言葉に圧倒されていたカーラ=ベオーザ率いるウッドヴィル公爵家の者達と、A級冒険者のティーニュ、そして第三王子であるジョーナスは確かに耳にしたのであった。

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