第581話 教皇の姿をした者

 バルトロス教の教皇リュームナスへと鋭い視線を向けるシャーロット。


「どこでそも名前を知ったのかには興味がありますが残りカスとはまた随分な表現ですね……」


 いまだその顔には笑顔を貼り付けてはいるがどうやらシャーロットの言葉を不快に感じたらしい。


「影に隠れてコソコソ動くしか能のない陰気なお前達にはお似合いの言葉よ!今回の目的はこの国をお前達の傀儡にでもすることかしら?」


 シャーロットの言葉に教皇は首を振って、


「それは少し違いますね。皆さんにはここで死んで我々の素材となって頂きますがそんな誤解をされたままでは困ります。そもそもの話ですがこの神聖帝国ミュロンドは我々の同志が建国したのです」


 そんなことを言ってきた。


『神聖帝国ミュロンドの母体が東方魔聖教会連合?』


 心の中で驚くミナト。すぐ近くではルガリア王国による東方魔聖教会連合への考えを公爵家から聞いているカーラ=ベオーザやティーニュも驚きを隠せないでいる。


 シャーロットとデボラは表情を変えず、ピエールはミナトの外套のまま揺れていた。


「そのように驚かれることですか?バルトロス教の教義が亜人に厳しく魔物の存在を認めないあたりに我々の思想が残っている思うのですがね?」


 そう言ってさらに首を横に振る教皇リュームナス。


「しかし建国を果たした者は我らからすれば外様も外様、組織のはみ出し者といったところであった為、徐々に関係は薄れました」


 俯き目を閉じながらそう語る教皇。


『ミナト!覚えている?あの連中は一枚岩の組織じゃなかったって話。頭のちょっとおかしな連中の集まりだったからそもそも大勢で協力なんてできない連中だったの。きっと組織の中枢と距離の遠かった者が建国したんでしょうね』


 シャーロットの念話にそんな話をシャーロットから聞いたことを思い出すミナト。


「そこから数百年、現在となっては何の関係もない国だったのですが、何しろバルトロス教と我らとの親和性が高いことが魅力でして……、国を持つのも悪くないということで初代皇帝が我らの所属であったということは、ここ国も我らに所属して然るべきと……、つまり我らに国を明け渡して頂こうと考えた訳です」


 顔を上げ満面の笑みでそう高らかに語る教皇。


「一つ教えろ。お前は何者だ?」


 ミナトが問いかける。


「そんなぁ、誰が見ても教皇リュームナスではありませんか?というのはこの身体が作り物デコイの魔法であることを見抜いた貴方たちには笑い話として通じませんか?でも凄くありませんこの作り物デコイ?これも魔法だけでなく教皇本人の素材を使っていますからね。この国の連中は誰一人として疑いませんでしたよ?」


 ニヤニヤと笑いながらそう答える教皇の姿をした誰か。どうやらミナトの問いに答える気はないらしい。


「ふん。あの連中の一員ってことだけで十分よ。私たちを前にして五体満足でいられるなんて思わないことね!」


 強い口調でシャーロットが言う。そんな姿も美しいと思ってしまうミナト。まだまだ心に余裕がある。【保有スキル】である『泰然自若』は今日もいい仕事をしているらしい。


「ふふ……、この身体は作り物デコイの魔法ですよ?私に直接ダメージなど与えられません。……しかしそれにしても美しい……」


 教皇の姿をした人形を操る何者かの笑顔が下卑たものへと変わる。


「あなた方を素材にあの人形のような魔道具を造らせてくれませんか?」


 その言葉と同時にいつのまにか教皇の右手に水晶のような球体が握られており、その水晶が光り輝く。


 その様子は先ほどの光景と同じで広場に次々と人影が現れる。先ほどは神殿騎士を犠牲にした魔道具だったが……、


「あれだけの神殿騎士型魔道具を相手にどう無傷で切り抜けたかは知りませんが、私にもこのような魔道具があるのです」


 そこに現れたのは目にはおよそ生気といったものがなく、全員がただ虚空を見つめて呆然としているように見える……、人族や亜人からなるただの一般人であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る