第574話 ある騎士の末路

 シャーロットが魔法を唱え終わると同時にボニハーツの部下である神殿騎士と神殿騎士型の姿をした人形が音もなく仄暗く赤い閃光に包まれる。


 周囲の者が認識できたのはそこまでである。


 赤い光が収まった後、その光を浴びた者達の姿は最早どこにも存在してはいなかった。


 その場に残されたのは神殿騎士ボニハーツ=アーべライン一人のみ。


『『『『ぎゃあああああああああああ!!』』』』


 そしてミナトは遠くからの絶叫を聞いたような気がした。爆風と衝撃波を放つ神殿騎士型の人形は作り物デコイの魔法によって遠隔操作されていたらしい。つまりは操作していた者がどこかにいるわけで……。


 以前、シャーロットが教えてくれた作り物デコイの魔法に関する詳細を思い出すミナト。


 作り物デコイの魔法は魂の一部を人形のような器に入れて遠隔操作する魔法である。自分の意識下で操作することができるし、意識から切り離して自動で行動させることもできる。そして自動の場合は魔法を解除した時にその作り物デコイが見聞きしたものが術者に共有されることになる。


 一見すると便利な魔法だが作り物デコイの魔法には致命的な欠点がある。


 作りデコイの魔法は器に術者の魂を入れる魔法だ。もし魔法を解除するか器が破損すると魂は術者に帰る。これが基本原理となるが高レベルで魔法を使う者は魂への攻撃ができる。つまり作り物デコイをその攻撃で壊した場合、魂へ直接の攻撃を行うことと同じ状態となるのだ。そして魂への直接攻撃は肉体への強烈なダメージとして顕現される。


 だから作り物デコイの魔法は禁忌だと。


『人形を操作していた者と研究施設と思われる場所を発見!処理しマス!』


 ピエールからもそんな念話が届く。


 そのような状況下において巨大な虹色のスライムに包まれ保護されているA級冒険者のティーニュもカーラ=ベオーザ以下ウッドヴィル公爵家の騎士達も、公爵家の執事兼元暗殺者であるガラトナさんも第三王子のジョーナスも、全員が驚愕の表情で絶句している。


 神殿騎士と神殿騎士型の人形、その数は合わせて百は超えていた。それが一瞬にして音もなく塵ひとつ残さずに消滅したのであるからそうなるのも無理はなかった。


『か、かぺ……、かぺぺ……』


 バルコニーに仁王立ちしていた第一王子のバルナバスは変な音を出しながら今回は間違いなく意識を失っている。


「な、なにが……、何が起こったというのだ……」


 突然、背後の風通しが非常によくなったという現実を受け止めきれないボニハーツは先ほどまで背後にいたはずである騎士達の行方を探すこともできず呆然と立ち尽くすのみ。


「ここに集まった神殿騎士達は姿を消したわ。あと神殿騎士と巨大な虹色のスライムとの戦闘に第二王子ヒルデベルト=カスパール=ミュロンドはあえなく死亡。そして……」


 そんなシャーロットの言葉と共に、


 バシャッ!


 直径三センチほどの水塊がぶつけられた。


「…………これは……?」


 状況をよく理解できない神殿騎士ボニハーツ。


「お前は死ぬ!」


 そう断言するシャーロット。すると、


「あが……、な、なんだ……、あぎょ……、あぐ……、ぐげげげげ……」


 突然硬直して苦しみ出す。手の先から水分が失われたかのように皺が現れそれが徐々に全身へと広がってゆく。


日照りの街シシタス・ウルプス……。やっぱり凄まじい魔法だね……』


 ミナトがそう思っている間にもボニハーツは見えない何らかの力によってぎゅっと引き絞られるかのような状態になる。そしてその状態はますます進行しその引き絞られた全身は古木の肌のような色と質感へと変貌した。さらには音を立てながらその五体は引き千切れ砂となって虚空に散る。そこには神殿騎士の装備一式だけが残された。


「ふう……」


 シャーロットが息を吐く。そこに、


「これはいったいどういう事態なのだ!?」


 雄々しい怒号が広場に響く。


『マスター!皇帝の治療、完了しまシタ〜』


 ピエールがミナトからもらった最後の頼みごとが完了したことを告げてくるのであった。

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