第573話 シャーロットの魔法 再び

「バカな!?魔道具は正常に作動した!なぜまだ生きている!?しかも無傷だと!?そんなことは……、そんなことはありえない……」


 同じように召喚された多数の神殿騎士達を背後に控えさせるボニハーツは呆然と呟く。バルコニーに仁王立ちしていた第一王子のバルナバスは笑みを凍りつかせたまま固まっている。気絶しているのかもしれない。


「その神殿騎士達は人形……、つまり魔道具ね。ブランディルとかって神殿騎士が連れていた作り物デコイの魔法で遠隔操作する人形と基本的な概念は同じ。解呪の魔法の代わりに爆風と衝撃波を前方に放つ魔道具を組み込み操作する……」


 呟くように言うシャーロットに魔力が集まる。その言葉の端々に彼女の怒りを垣間見るミナト。巧みに隠蔽されてはいるが集まる魔力は奔流となりシャーロットを中心に増大する。


 隠蔽を解いてしまった場合、魔力を目の当たりにしただけで心臓が停止する者が出るくらい濃厚な魔力だ。ミナトがシャーロットの魔力に圧倒されていると、


『うむ。マスターよ!この人形を造った施設が近くにあるはずだ!』

『ん!あの召喚の魔道具がマスターの転移テレポより優秀なはずがない!人形達はきっと近くにいた!』


 デボラとミオからそんな念話が届いてハッとする。


『ピエール!人形を造った場所と研究施設を探して……』


 そんな指示を出そうとすると、


『ミナト。ここは私に任せて!』


 ミナトの念話に割り込むようにシャーロットの声が頭に響いた。


『いつかミナトも決断を下す日が来るわ。だけどまだダメよ。ここは私が決断するわ!』


 シャーロットの念話には有無を言わさぬ迫力があった。同じ人族を殺すという決断をミナトにさせたくないらしい。この辺りについてシャーロットは相変わらず頑なだ。


『シャーロットに任せるね……』


 その後、シャーロットがピエールに何を言ったのかは分からなかった。


 そしてシャーロットは改めてボニハーツと背後の神殿騎士達を見据える。


「あのブランディルとかって騎士が連れていた騎士の人形も酷かった……。でもこの人形は酷すぎる!人族を生きたまま人形に使ったわね!魔法で心を壊し、魔道具を組み込むことで作り物デコイの魔法で遠隔操作できる生ける屍とした……」


「ブ、ブランディルだと……?なぜその名を……、そして解呪の魔法のことを知っている!?そしてなぜこの人形の仕組みを知っている!?なぜだ!?なぜなのだ!?」


 そう声を荒げるボニハーツ。


「クラレンツ山脈でアンデッドの封印を解こうとして罠によって消滅した間抜けな神殿騎士がそんな名前だったってだけよ。人形の仕組みを知っていたのは同じようなことをしたクズども東方魔聖教会連合がいたってだけ。お前達は奴らと同じだ。命を弄んだ報いを受けるがいい!」


 シャーロットの美しい金色の髪と金色の瞳がうっすらと紅い光を帯びる。


『これって……、ヤバいんじゃない!?』


 魔力に圧倒されているミナトは動けず声も出せない。だがシャーロットがこれからやろうとしていることを理解して戦慄する。


 そうして魔力の隠蔽が解除された。凄まじい魔力の奔流にボニハーツ直属の神殿騎士達は真っ青を通り越して土色にその顔色を変える。


「命を弄ぶ!?これは心外!この者達は敬虔なバルトロス教の信徒!これは我らの神からの試練として皆は喜んでこの姿になったのだ!アハ、アハハ、アハハハハ……」


 シャーロットの強大な魔力を前に一歩も怯まず狂気に駆られた笑みを浮かべそう返すボニハーツ。シャーロットの魔力と狂気に駆られたボニハーツを見比べ状況のヤバさを理解したらしい彼直属の神殿騎士達は必死の形相で逃げ出そうとする。そして神殿騎士の姿をした人形達がシャーロットへと飛びかかる。だがそういった存在全てを標的として……、


厄災による裁きの炎Meltdown!」


 この世界における全てのことわりを消滅させることができる伝説の魔法が発現するのであった。

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