第572話 帝国の魔道具
水晶型の魔道具が発する光に導かれるように次々とその姿を現す新手の神殿騎士達だが、
「様子がおかしくない?」
何かに気づいたミナトがそう呟く。
騎士達の目にはおよそ生気といったものがなかった。全員がただ虚空を見つめて呆然としているように見える。そんな神殿騎士数十人が姿を現し水晶からの光が途絶える。
「何か変じゃないか?」
「ああ。普通じゃなさそうだ」
「人族なんだろう?」
「さあな?だけど随分と顔色が悪い……」
「あいつらいったいどこを見てるんだ?」
ウッドヴィル侯爵家の騎士達もそんな言葉を並べる。
その時、突然召喚された一人の騎士が走り出した。そこにはシャーロットが展開した
「ヤバい!?」
ミナトがそう口走る。魔力の高まりを感知したのだ。
「ピエールちゃん!」
「うむ!」
「ん!」
「魔力です!防御を!」
シャーロット、デボラ、ミオ、ティーニュの声が重なる。同時に死地へと走り込んだ神殿騎士が爆発した。凄まじい爆音が鳴り響く。
そして狙ったかのように弾け飛んだ神殿騎士の前方に恐ろしいほどの爆風と衝撃波が発生し、それがミナト達やウッドヴィル公爵家の者達が飲み込む。
もうもうと粉塵が舞い上がり視界が閉ざされる。
凄まじい爆風と衝撃波は地面に扇形のクレーターを造ってようやくその勢いを止めた。
「ふふ……、はは……、ふははははは……」
乾いた笑い声が頭上から聞こえてくる。粉塵が舞い上がる様子をバルコニーから見下す神聖帝国ミュロンドの第一王子であるバルナバス=ハルトヴィン=ミュロンドである。
「これが我が帝国が誇る新兵器、神殿騎士型爆裂系魔道具よ!ボニハーツ!たった一体でこの威力!素晴らしいではないか?」
狂気に駆られたような不気味な笑みを浮かべつつ腹心へとそう声をかける第一王子。
「は!ヒルデベルト様によるとまだ外見の工夫が足らないとのことでしたが……、この威力は十分実戦にて用いることができるものかと!」
「これで邪魔者は消し飛んだ。これより我らは……」
第一王子が高らかに何かを宣言しようとして、
「ピエールがいて助かったよ。さすがに驚いた。ヒルデベルトって第二王子だっけ?」
「ミナト!ここは私たちに任せるところだと思うわ!」
「うむ。これほどの不快感は久しぶりだ!」
「ん!ボクたちの怒りを思い知るとき!」
『許しがたいデス〜』
舞い上がる粉塵の中からそんな台詞が聞こえてきた。ホッとしたかのような声と戦意を剥き出しにした気迫のこもった声。
「皆さん!ご無事ですか?」
「おぼぼぼぼ……」
「あがががが……」
「ぶぶぶぶぶ……」
「落ち着け!大丈夫!呼吸はできる!できるから、落ち着いて息を吸うのだ!」
「あばば……、息……、息ができ……、てる?」
「おぼ……、す、すぅ……、はっ、ほ、ほんとうだ!」
「死んだ……、だって世界が虹色だから……」
「生きてる!まだ生きてるぞ!」
「どうやら助かったみたいですね」
「これは貴重な体験ですね……」
そんな声も聞こえてくる。
バルコニーにいた第一王子のバルナバスが先ほどの笑みを凍りつかせ、舞い上がる粉塵へと視線を向ける。
一陣の風が粉塵を運び去る。そこには、ふよふよと不定型化する漆黒の
そして巨大な虹色のスライム達にスッポリと飲み込まれる形となっているA級冒険者のティーニュとカーラ=ベオーザ以下ウッドヴィル公爵家の騎士達、公爵家の執事兼暗殺者のガラトナさん、この国の第三王子であるジョーナス=イグリシアス=ミュロンドである。
完全に飲み込まれている状態だが問題なく呼吸はできるらしい。
「なにが魔道具よ!カラクリは理解したわ!この世界の命を弄ぶお前達を私は軽蔑する!こんな気持ちになったのは
その瞳に強烈な怒りを滲ませつつ、結界を展開するシャーロットがそう言い切るのだった。
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