第570話 そして美女たちも加わる
第三王子であるジョーナスの乗った馬車とウッドヴィル公爵家の一行を取り囲んでいた神殿騎士達はピエールの分裂体によって無力化された。
「ミナト殿!第三地区にいる騎士とポーター達は?」
「神殿騎士を差し向けられたみたいですけどね。もちろん全員無事ですよ」
カーラ=ベオーザからの問いにそう答えるミナト。その辺りはピエールがきちんと対応してくれている。
『さてと……、あとは落とし所を……』
そう考えるミナトだが
「殿下!もう大丈夫でございます!あとは我らにお任せあれ!」
ピエールによる夥しい数の分裂体を前にして何を根拠にそんことを言うのかミナトには分からなかったが、
『あいつって皇帝のところにいた第一王子の側近じゃなかったっけ?』
そのことには思い至る。
「おお!ボニハーツ!来てくれたか!」
「もちろんでございます!この状況はテイマーの仕業でしょう!あの不届者の中にテイマーが紛れています!この聖なる街に不浄なる魔物を持ち込んだ罪は重い!今こそ神の裁きを!」
大剣を担いだまま第一王子へと優雅に一礼し、大剣の切っ先をミナトへ向けてそう言い放つ。彼の背後にいる騎士達も次々と抜剣した。
『えっと……、たしかボニハーツ……、ボニハーツ=アーべラインだっけ?どうしよ?とりあえずテイマーではないってことを……』
そんなこと考えたミナトが口を開くより早く、
「ギャーギャーと煩いゴミどもね。見て分からない?ここにいるのはエンシェントスライムよ?エンシェントスライムをテイムするなんて聞いたことがないわ!このスライム達は偶然ここに姿を現し、偶然私たちを取り囲んでいた神殿騎士を倒したのよ!」
「うむ。そして偶然にもファナザの街はアンデッドに襲撃されておるらしいがな?」
「ん。全て偶然!」
ミナトの傍にいたシャーロット、デボラ、ミオがそう声を上げた。
そうシャーロットの言う通りであった。この場の状況はエンシェントスライムがウッドヴィル公爵家一行を助けたかのように見える。だがこれがミナトの指示によるものだと分かっているのはシャーロット、デボラ、ミオ、ピエールを除けばカーラ=ベオーザとA級冒険者のティーニュのみ。そしてミナトの関与を証明することは絶対に不可能といえる状況である。これもミナトの思惑だ。
「もし私たちを相手にすると言うのであれば覚悟しなさい!私たちはミナトのように甘くはないわよ?」
不快なものを見る目でシャーロットがそう言い放つ。
そんなシャーロットの言葉を挑発と受け止めたらしいボニハーツが率いる近衛騎士っぽい神殿騎士達はミナトたちの下へと歩みを進める。
この時、ピエールの分裂体は反応しない。神殿騎士から攻撃された場合のみ四肢や身体の一部を損壊させる程度の傷を負わせ決して殺さないこと、とミナトから厳命されているためだ。そしてその命令を変更しないミナト。なぜかと言うと、
『私に任せなさい!こんな連中一掃してやるわ!』
『うむ。我も魔法の一つも使わねばと思っていたところだ!』
『ん!ピエールちゃんだけじゃなくボクも戦う!』
という好戦的な感情を伴う念話が届いたためである。
「そこで止まりなさい!」
シャーロットの美しい声が響く。どうやら魔法で音量を上げているらしい。
「一度だけ忠告してあげる。それ以上近付いたら死ぬわよ」
「うむ。死にたくなければな」
「ん。その方が賢い」
平然とそう言い放つ三人の美女。だが神殿騎士達は止まらなかった。いやさらなる挑発と勘違いした三人の騎士が怒りの表情と共に長剣を構えて走り出す。先頭のボニハーツを追い越してミナトたちに迫ろうとした瞬間、
「!?」
「?」
「??」
三人は自分に何が起こったのか分からなかっただろう。
一人が細切れとなり、一人が燃え上がって灰となり、一人が氷の彫刻となり砕け散ったのであった。
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