第568話 そして悪夢が顕現する

 神聖帝国ミュロンドの第一王子であるバルナバスの命によりウッドヴィル公爵家一行を取り囲んでいた神殿騎士達が抜剣する。


「バルナバス殿!我らは誇りあるウッドヴィル家の騎士!このような無体には御抵抗しますぞ!」


 カーラ=ベオーザがそう声を上げて騎士達が戦闘に備える。


「ふん。無駄な足掻きは止めることだ。たとえこの包囲網を突破できたとしてもそなたらに逃げ道などない!なぜなら……」


「バウマン辺境伯領は既にアンデッド軍団の侵攻を受けている!とでも言いたかったか?」


 バルナバスの言葉を遮ってそう言い放つミナト。その言葉は効果的だったらしく、


「な、なにを……」


 明らかに動揺するバルナバス。その態度で神殿騎士達の動きが止まる。


『ここで動揺する?威厳のありそうな態度だったけどそこまで貴族の腹芸は得意じゃなさそうだ』

『ま、皇帝の器じゃないわね』

『うむ。未熟者が!』

『ん。やっぱり小物!』


『ピエール?』

『確認しまシタ!マルトンの砦も領都イースタニアも平和そのものデス〜』


 これがピエールへの一つ目のお願いである。分裂体に眷属転移テレポでバウマン辺境伯領を確認してきてもらったのだ。ま、フィンたちがミナトにテイムされているので間違いなく何事も起こってはいないのだが念のためである。


『そりゃそうだよね……』


 そう心の中で思いつつ、


「ちなみにアンデッド軍団の使役には失敗しているぞ?クラレンツ山脈の入り口にあるマルトンの砦も領都イースタニアも平和そのものだそうだ!しかし魔物の存在を認めないバルトロス教を信じる者がアンデッドの使役を画策するなんて……、教義的に問題ないのか?」


 多少の挑発も兼ねてそう言ってみるミナト。


「な、なにを言って……」


 さらに動揺しているらしい第一王子。そこにミナトは畳み掛ける。取り敢えず言いたいことは全て言うつもりのミナトである。


「本来の計画では国境の街ファナザに集めた神殿騎士を使ってクラレンツ山脈辺りでおれ達とジョーナスさんを暗殺する計画だった!違うか?そして計画のため事前にクラレンツ山脈に封印されていたアンデッドの封印を解除して使役しておく。そのことをルガリア王国がアンデッドを野放しにしていたということにし、アンデッドがジョーナスさん殺したって話をでっち上げ絶対に払えない高額の賠償金を請求する。結果として払わない王国に対して第三王子の無念を晴らすとかって名目で宣戦布告。同時に使役したアンデッド軍団でバウマン辺境伯領を侵攻し、対ルガリア王国の前線基地にする!概ね筋書きはこの程度だろう?」


 ミナトからの指摘に目を見開くバルナバス。


「だが愚かにもお前は筋書きを変えた!昨夜、色と欲に憑かれた教皇と枢機卿が再起不能になったことを利用し、おれ達に罪を着せ一気に宣戦布告まで持って行こうとしたんだ!」


 ミナトが真っ直ぐにバルナバス見据える。


「謀略を画策するときに重要なことは念入りに準備し些細なことなどで計画を変えないことだ。最初の計画ならどこかで失敗しても知らぬ存ぜぬを通すタイミングがあった!だがもうダメだ。お前の関与は皆が知っている!引き返す機会も与えたのに……」


 ここでミナトに言葉に激昂するバルナバス。


「F級冒険者風情が!貴様に何ができる!ここで貴様らの息の根を止めれば何も変わらぬわ!」


『あ、そんなことまで知っている……』


 ミナトがそう考えたとき、バルナバスの言葉に反応した神殿騎士達がミナト達に襲い掛かろうと間を詰めるが、


「ぎゃーーー!」

「なんだ!?ごふっ!」

「腕が!俺の腕が!」

「げっ!足!足が〜!」


 バタバタとその場に倒れ込む神殿騎士達。大多数が四肢や体の一部を失いその激痛で絶叫が上がる。


「お前の父親はお前に何を教えた?ルガリア王家が、ウッドヴィル公爵家がただのF級冒険者を一行に帯同させると思うか?」


『ピエール!』

『ハイ!』


 その念話でミナトの意を理解し反応するピエール。一瞬にして神聖帝国ミュロンドの帝都グロスアークを埋め尽くさんばかりに多数のエンシェントスライムがその姿を現す。


 帝都グロスアークに悪夢が顕現した。


『マスター!あと二つあったご命令も完了しまシタ!』


 これが後世の歴史学者によって『バルナバスの愚昧』や『虹色と瘴気の悪夢』などと呼ばれる事件の始まりとなることをまだ誰も知らなかった。

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