第567話 ミナトによる最大限の……
「ほう?認められないと言ったな?貴様は我の決定が認められないと言うのか?」
まるで面白いものを見つけたかのように第一王子たる威厳と余裕を保った様子でバルナバスが問い返す。カーラ=ベオーザや騎士達は宣戦布告の言葉を聞いて当惑しているが、微塵も気にしていないミナトは第一王子を見上げつつ肩をすくめて見せる。
「調べはついている……、ね。まるで襲撃者がおれ達の仲間で既に捕らて自白させたかのような言い方だけど?本当かな?」
相手がこの国の第一王子であることなど歯牙にも掛けないような態度でミナトが答えた。ミナト達を取り囲み殺気立っている神殿騎士達にも我慢の限界が近いらしい。何かの切っ掛けがあれば抜剣して戦闘が始まりかねない様子で堪えているのが気配から感じられた。
そうしてそんなミナトの言葉に第一王子のバルナバスは我が意を得たりと言わんばかりの表情となり、
「ふふん!調べはついていると言ったであろう?もちろん襲撃者二人の身柄は既に拘束しておるわ!」
余裕の笑みと共にそう返してきた。
『いい演技してるね。でもこういう時の拘束された襲撃者って間に仲介者がいて結局は真の依頼人に辿り着かないっていうのが定番じゃない?』
『そこは捕らえた二人が公爵家と証言したってことで押し切るんじゃない?』
『うむ。人族や亜人の正しい司法の場ではかなり苦しいがそこに権力を使うか……。王族や貴族とはもっと狡猾に立ち回るものだが……』
『ん。ルガリア王家や二大公爵家に比べたら小物!』
朝から
「何がおかしい!?」
「いや……、見えませんか?ここの三人ともいるんですけど?我々から三人が離脱したと仰いましたが何か誤解があるようですね?」
いつの間にかミナトの傍にシャーロット、デボラ、ミオの三人が立っている。そのあまりも自然な登場にカーラ=ベオーザ以下ウッドヴィル公爵家の一行も絶句する。
「なんだと……?」
「「「!?」」」
バルナバスと周囲の神殿騎士達も固まってしまった。
「私の仲間達はここにいます。人違いだったようですね?ああ、大丈夫です!もちろん勘違いは誰にでもありますよ!
笑顔のようで目が笑っていないミナトの言葉。全身から少しだけ魔力が滲み出ているがそれに気付ける者は少ない。だがその最後の一節に言外の意味が込められているのを本能的に理解するカーラ=ベオーザ。なぜそんなことができたのか自分でも理解できないが、
「ミ、ミナト殿の言う通り。人とは時に過ちを犯すものであるからな」
ミナトの意図した通りにカーラ=ベオーザが返答する。
『似たようなことをグランヴェスタ共和国でもしていたわよね。やっぱりあれって契約魔法に近い……、いや魔王が使う隷属魔法かしら……?』
『うむ。魔王の所業に近いな!さすがはマスター!我が主人だけのことはある!』
『ん。魔王様の言葉はゼッタイ!』
いろいろと念話が聞こえてくるが、ミナトはそちらには反応せず、
「おお!さすがはベオーザ様!その寛大な心で先ほどの第一王子の言葉はなかったことにして頂けると!それは素晴らしい!」
カーラ=ベオーザは目をパチパチさせて驚いているがミナトの行為は理解してくれたらしい。ミナトに頷いてみせる。ミナトは甚だ強引ではあるが先ほどの宣戦布告を無かったものにしようとしたのだ。
それを聞いて真っ赤になって俯くバルナバス。
ここまでがミナトによる最大限の譲歩であった。だからシャーロット達もまだ何もしていない。
拘束したとされるミナトの仲間がこの場にいるという現在の状況ではどう考えても第一王子の言い分に無理がある。周囲の神殿騎士達もそのことは理解できる状況だ。あとは権力者による振る舞いの問題であり、一応の逃げ道は用意されている。
まだ第一王子はこの国の皇帝ではない。もし皇帝であれば、『国のトップが道を誤るなどあってはならない!』などの考えで引き下がらない可能性が高いが、バルナバスはまだ第一王子である。自身の過ちを認めて引き下がれば病床の皇帝から叱責されるかもしれないがそれで終わりのはずだった。
『カーラさんから強引だけど言質も取ったし、これで引き下がってくれるかな……』
そう思っていると、
「な、なにが勘違いなものか!皆の者!逃げ出した昨夜の襲撃者がここにいる!我が弟であるジョーナスも襲撃者の一味である!全員を捕らえよ!一人も生きて王国へ帰すな!」
残念な結果に項垂れるミナト。周囲の神殿騎士達が無表情で動き出す。状況は理解しているであろうが神殿騎士である以上、主人の命令は絶対ということだ。
『ピエール……、ちょっとお願いが……』
『なんでショウ?』
どうやら衝突は避けられない。ミナトはピエールにいくつかのお願いをするのであった。
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