第566話 それがやりたかったのか……
「この
その言葉に怒りを滲ませつつ鉄製のレースがあしらわれた美しいバルコニーで仁王立ちする筋骨隆々かつ金髪碧眼の人物。ここ神聖帝国ミュロンドの第一王子であるバルナバス=ハルトヴィン=ミュロンドが高らかに言い放つ。
『あ、ここって
ミナトの【保有スキル】である泰然自若は今日もきちんと発動しているらしい。
【保有スキル】泰然自若:
落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。
とても落ち着いてるミナトがそんなことを思っていると、バタバタ現れた多数の神殿騎士がウッドヴィル公爵家一行と第三王子であるジョーナスを乗せた馬車を取り囲む。
「バルナバス第一王子!我らはルガリア王国ウッドヴィル公爵家からの使者である!このようなことをして後から冗談だったでは済まされんぞ!」
カーラ=ベオーザがそう声を上げる。ルガリア王国の騎士という立場からすれば他国とはいえ王族であるバルナバスに敬意を払うべきカーラ=ベオーザだが、現在の彼女はルガリア王国における二大公爵家の一つであるウッドヴィル公爵家の名代を兼ねている。暗殺の嫌疑という不名誉には毅然とした態度で臨むのは当然といえた。
「ウッドヴィル家に雇われそなたと共に我が国へとやってきた冒険者が三人、国境の街ファナザでそなたの隊から外れたであろう?その内の二人が教皇と枢機卿の暗殺に関わった疑いがある!そなたが知らんとは言わせん!」
確たる証拠は我に有り、と言わんばかりに第一王子のバルナバスが言ってくる。
ちらりと……、ほんの一瞬、カーラ=ベオーザの視線がミナトへと向けられた。その一瞬に非難めいた感情が乗せられている。それを敏感に感じ取りあさっての方を向くミナト。
カーラ=ベオーザだけではない。カーラの傍にいるA級冒険者のティーニュはフードを目深に被ったままだが、こちらは『じ〜』という効果音が聞こえそうなほど露骨にその顔をミナトへと向けている。見えはしないがおそらく向けられている視線はとても非難めいたものになっているだろう。
そしてそれだけでは終わらない。第三王子を乗せた馬車の御者を務めるウッドヴィル公爵家の執事兼元暗殺者のガラトナさんはやれやれと首を横に振っており、周囲の騎士達からは非難と『やっぱりな』的な感情が込められた生暖かい視線が向けられた。
ティーニュも含めてウッドヴィル公爵家の者達は全員が優秀である。カーラ=ベオーザ、ガラトナ、ティーニュの三人はミナト達の真なる力を知っているし、他の騎士達も薄々ではあるが勘付いていた。
そんな皆が昨日の深夜に明らかに
そうして一行からの微妙な視線を集めつつもミナトが口を開く。
「あのー、その暗殺者が我々の仲間であった証拠とは……?」
その言葉に取り囲んでいる神殿騎士達が殺気立つ。どうやらミナトの態度を不敬と捉えたらしい。だがミナトの言葉を聞いたバルナバスはニヤリと笑い手を挙げ神殿騎士達を制した。
「本来は貴様のような下賤の冒険者に聞かせる声など持ち合わせてはおらぬのだが、そんな貴様もウッドヴィル公爵家の一員ということで特別にその問いに応えてやろう!暗殺者は美しいエルフと青い髪の少女である!」
堂々と宣言する第一王子。だがミナトは第一王子の宣言を最後まで聞いていることはできなかった。それどころではない事態が発生したのである。。
『ミナト!
『うむ!マスター!この鎖を外すのだ!言うに事欠いてマスターを下賤の者だと!?我が一族その全ての力でこの国を焦土にしてくれる!』
『ん!マスターへの暴言は死あるのみ!マスターが鎖を外してくれたらこの国を千年は続く氷の世界にしてみせる!』
『待って!怒ってくれるのは嬉しいけどここは落ち着いて!お願い!お願いします!ここでそれやっちゃうと本当の暗殺者……、じゃなくてもう破壊神の扱いになっちゃう!』
『マスター?ご命令があればこの国の生命も建物も全てを溶かせますケド〜?』
『ピエール!?ダメ!それはやっちゃダメ!ゼッタイ!お願いだから!』
ピエールからも好戦的な感情と念話が届いてあたふたするミナトである。
【闇魔法】
ありとあらゆるものが拘束可能である漆黒の鎖を呼び出します。拘束時の追加効果として【スキル無効】【魔法行使不可】付き。飲んで暴れる高位冒険者もこれがあれば一発確保!
【闇魔法】
全ての音や生命反応を感知不能にする透明化に加えて
「貴様……、我の言葉を聞いておるのか!」
自身の言葉に全く反応しないミナトに苛立ちを見せる第一王子。神殿騎士達が改めて殺気立つ。
「ミナト殿!この状況をどうするのだ?」
カーラ=ベオーザの言葉になんとか四人を宥め切ったミナトが、
「エルフと青い髪の少女、それだけでその二人が我々の仲間だったという証拠にはならないのでは?」
とりあえず真っ当に反論してみるミナト。実際、人形には冒険者証などの名前や身分が証明できるものは持たせていない。容姿がよく似ているだけの別人である可能性は司法がまともであれば簡単に否定できるものではない。
「ふん。もはや調べはついているのだ!ルガリア王国はウッドヴィル公爵家一行に刺客を忍ばせ我がバルトロス教の教皇と枢機卿の暗殺を企てた!これは明らかなバルトロス教への……、そして我が国への敵対行為である!その罪は極めて重い!我が国は本日をもってルガリア王国との不可侵条約を破棄!貴国に宣戦布告するものである!」
ドヤ顔でそう宣言する第一王子。とりあえずどうやらこの国の司法は正しく機能していないらしい。そしてミナトはその第一王子の言葉で大体の状況を理解する。
『ルガリア王国への宣戦布告……。それがやりたかったのか……。フィン達を使役って言っていたから、本当はクラレンツ山脈辺りでジョーナスさんを暗殺する予定だったのかな?ルガリア王国内に野放しにされていたアンデッドの仕業とかって話をでっち上げ絶対に払えない高額の賠償金を請求、払わない王国に対して第三王子の無念を晴らすとかって名目で宣戦布告って筋書きかな?人形に何かした教皇と枢機卿のおかげで手間が省けたとでも思っているのかな?』
そうしてミナトが好戦的な笑みを浮かべる。
「悪いけど、そんなことは認められないんだよね」
第一王子を真正面から見据え堂々と答えるのであった。
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